8/20 homeogryllus japonicus orchestra vol.2 @原美術館


8月初旬の日記で、だいぶ期待して煽ってしまった鈴虫コンサートに行ってきた。
http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20050803#p1

  • homeogryllus japonicus orchestra:鈴虫、シンギングボウル
  • 山川冬樹ホーメイ、Vo、G、心臓(?)
  • 鈴木昭男:磐笛、石、アナポラス、グラス・ハーモニカ

....結論から言うと、確かに気持ちよかったんだけど、ちょっといろいろ課題の残るイベントだったのではないかと思う....。面白い局面もあったことはあったのだが....。俺の日記読んで期待して行ったかたには申し訳ない気がする(別に俺が悪いわけじゃないけどさ....)


注:以下、超長文になってしまいましたのでご注意(何に?)



昨年と違って好天に恵まれた(というか昼間はカンカン照りの酷暑)ので、今年は美術館の中庭で開催。美術館のほうでは「やなぎみわ展」やってて、非常に面白そうだったんだけど、昼間あまりに暑くて外出を断念。ヘタレなもんで。
http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html


夕刻、会場に入る。ようやく暑さも和らいできた中庭は、降るような蝉時雨。早くも鈴虫が鳴いている。

中庭の奥にPA設備を置いてステージにし、芝生に椅子を並べ、前方には座布団を並べて客席としてある....。これでまず「へぇ....こういう風にしちゃうんだ.....」と、意外というか拍子抜けした印象。


イベントのコンセプトや主旨からして、配置を「ステージ対客席」という位置関係にする必要が、果たしてあったのかどうか。観客がパフォーマー(鈴虫含む)を取り囲む形にする、鈴虫が観客とパフォーマーを取り囲む形にする、または、客席/ステージの区分を全くつけずにランダムに配置して観客は自由な位置で聴く、なんていう選択肢も考えられたのではないだろうか。つうか、俺てっきりそうなってんのかと思ってた、全くの先入観だけどさ。


鈴虫部隊は、今年は駄菓子屋でお菓子入れとくみたいな大き目のビンに飼われていて、中にマイクロフォンと白熱電球が仕込んである。こんな感じ。あんまり上手く撮れてないけど。

配られたチラシで初めて知ったのだが、今回はスタッフがチベットの楽器(仏具?)“シンギング・ボウル”を鳴らして、その音を電圧に変換して電球の明滅をコントロールし、鈴虫諸君に「あっ、昼になった/夜になった。鳴き止もう/鳴こう」と思わせることで鳴き声(もとい、羽を震わせるの)を“指揮”する、というパフォーマンスだった。ただ、明るかろうが暗かろうが鈴虫諸君元気いっぱいで鳴きまくってるのはご愛嬌(笑)。


ちなみに“シンギング・ボウル”とはこんなもの:
google:シンギング・ボウル


宵闇迫る頃、イベント開始。まず、長身痩躯+背中まで伸びた長髪、まるで70年代、CAN在籍時のダモ鈴木みたいな風貌の山川氏が登場。芝生に敷いた絨毯の上に体育座りして歌い(唸り)始める。マイクを使っていない。どうやら聴診器を体に当ててその音を拾っているらしい。


山川氏のサイトによると:
http://fuyuki.tv/

近年は電子聴診器や電気式人工喉頭といった医療機器を積極的に導入し、自らの心臓の鼓動の速度を制御しながらそのリズムを光の明滅に還元するなど、身体とテクノロジーをテーマにした作品を発表している。

山川氏のホーメイはプロフィールに書かれているだけあって流石に凄い。低音の唸りと倍音部が完全に分離して別個に動いてるような。それに倍音部が凄く張りがあって音量がデカい。まるで蝉の声のよう。


暫くして立ち上がり、シャツを脱ぐと、心臓の上にテープが貼ってあってそこからケーブルが延びている。これが例の聴診器?ケーブルの先にはトランスみたいのを介して白熱電球が数十個、ガラスで出来た葡萄のように房になって地面に置いてある。山川氏が深呼吸をすると


ズドドドドドドド


....マジですか?これは。


アンプで増幅された鼓動の音が、まるでドラムンベースのように響く。白熱電球は鼓動と連動して激しく明滅する。その後も山川氏は「ドドッ、ドッ、ドッ、ドドドドドドド」と、ハーレーダヴィッドソンのエンジン音のように鼓動を変化させて鳴らしてみせる。


鼓動プレイ(?)の様子は、こんな↓感じ(山川氏の過去のライブ写真)。電球の置き方違うけど。
http://home.catv.ne.jp/dd/fuyuki/photo/hills.jpg

(@_@;;;


....何コレ?ホントに人間にこんなことできるの?目の当たりにしても俄かには信じ難い。なんかトリックなんじゃないかと思ってしまうくらい(失礼!)。伊東篤宏氏の蛍光灯マシン "Optron" を人力でやってるみたいな感じ。ちょっと凄いなこれは。


ヨガをかなり高度に習得すると、体の不随意筋や内臓の動きを随意にコントロールできるって聞いたことがあるけど、そういうワザなのかな。


続いて、エレキギターストラト)を手に取り、ボディを叩いたり擦ったりして(弦は弾かない)フィードバック音を作り、それをバックにして弾き(?)語り。御詠歌のような歌なのだが、モンゴルやトゥバの民謡なのだろうか。ストラトのボディでシンバルを叩きながら歌い続け、最後にシンバルをたたき落として、幕。


山川氏の演奏が終わって、休憩。後半は鈴木氏。

  1. グラス・ハーモニカ(ガラス管で出来たマリンバみたいな自作楽器)を叩いてチャイムのような音
  2. 手のひらに持った石ころ2枚をカスタネットのように叩きながらゆっくりと歩き回る。手のひらをすぼめてワウワウの様な音色変化
  3. 石を叩きながら散歩するように庭を一周
  4. 片方の石を地面に落とし、真上から狙い定めてもう1枚をぶつけて、石の演奏終わり
  5. アナポラス(バネと缶で出来た糸電話みたいな自作楽器)
    1. 観客の女の子に端を持たせる
    2. 缶に向かって磐笛吹いて深い残響音を出す
    3. バネを擦って、レゲエのダブみたいなエコー音(実にイイ!)
    4. 缶に向かって「ホーウ」と叫ぶ:まるで牧童が霧深い谷に放牧した家畜を呼び戻すかのように。
    5. 擦ったり引っかいたりして色々なスペーシーな音を出す:アコースティックな電子音(?)
  6. グラス・ハーモニカ
    1. 竹ヒゴのような細いスティックで叩く
    2. ガラスを擦っていわゆるグラスハープの音
    3. マレットで叩いてヴィブラフォンのような澄んだ音
    4. 擦りながらスティックで叩いたりして色々な音出して→終わり。

アナポラスとグラス・ハーモニカの演奏は↓こんな感じ(2003年名古屋でのライブ風景):
http://www.lethe-voice.com/2003/newsflash/101_suzuki.html


俺ははっきり言ってこの人のミーハー的なファンなのだ。飄々とした佇まいがホントにいい。ほんと仙人みたいだよなぁ。最小限の素材から最大限の音響効果を引き出せる各種自作楽器も素晴らしい。特にアナポラスは、傍で聴いていても、電源なしであの音というのが信じ難い。テープエコーかアナログ・ディレイにしか聴こえないもんな。


さて。


肝心の鈴虫オーケストラ、homeogryllus japonicus orchestraなんだけど....。終了後、どうも、これでいいのか?という疑問が沸いてしまった。

homeogryllus japonicus orchestraはこのスズムシの鳴声をアンプリファイ、ミキシングし、異化するGreat YEar soundingsのパフォーマンス/インスタレーションです。

...だそうなのだが....正直言って、“異化”されていたとは思えなかったのだよ。


まず、今年は“数百匹の鈴虫によるコンサート”ではなかったのね。10匹20匹くらいの鈴虫が入ったビンが数個、って感じだったかな。そりゃ確かに、Webサイトを見てもチラシを読んでも「去年は600匹」とは書いてあっても「今年も600匹」とは、どこにも書いてないけどさぁ....。それに当然虫の数が多けりゃいいってもんじゃないのは分かるのだが....。もうちょっと親切なパブリシティの書き方があったんじゃないの?と思ってしまった。俺、日記に書いたり友達に喋ったりして宣伝しちゃったよ(泣)


それに、冒頭にも書いた、会場の配置。せっかく中庭でやるのに“ステージ対客席”という位置関係にする必要性があったのかどうか。


それから、照明による鈴虫の鳴き声の“指揮”だけど、鳴き声のコントロールに成功していたとは言い難い。明るくなろうが暗くなろうが鈴虫は鳴いてた気がするし、スタッフがさかんにシンギングボウルを擦ってみても、音量やダイナミクスに劇的・効果的な変動があったようには聴こえなかった。仕掛けと効果の間のインタラクションにだいぶ齟齬・問題があったというか、実は思ったほど上手くいってなかったんじゃないか?と推測してしまう。ぶっちゃけ言っちゃうと、何してるか分からなかったっす。


鈴虫を聴かせることに関しては、カフェの中でやった去年のパフォーマンスのほうが良かった。密閉された空間で鳴きしきる虫の声が音のモアレ模様を作って、ちょうどSachiko-Mのサイン波がライブ会場の空間をみっしりと満たして聴衆の聴覚を変容させていくような効果が顕われていた。天気が悪くて屋内になったのが結果的には吉と出たのかな。


結果として、“お庭で虫の声とユニークなミュージシャンを聴く夕べ”以上のものにはなっていなかった、と思うのだ。気持ちよかったから、俺的にはひとまず満足したんだけど(だったらいいじゃねぇか、何イチャモンつけてんだと言われそうだけど)、パフォーマンス/インスタレーション企画ユニット“Great YEar soundings”としては、どうよ、みたいな。


まぁ、第3回が企画されればまた行くし。去年のパフォーマンスのCDも買ったし。基本的には期待して応援しているので、今回の課題を次回への糧として、頑張っていただきたいと思うものであります(何様だ俺)。


うわ、長っ!この日記始めて以来、最長かな?くどいな俺。



【参考】ブログで検索して見つけたレビュー。

soundworm, 音虫記鈴木昭男という妖怪
http://d.hatena.ne.jp/sndwm/20050823#p1

トフのミュージック・エッセイ:2005年8月
http://homepage2.nifty.com/tofu-tokiwa/8-2005.html

Good Girl Blues:homeogryllus japonicus orchestra vol.2 @原美術館
http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=33613&pg=20050820
http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=33613&pg=20050821

daybookホーメイと鈴虫
http://minibooks.exblog.jp/614973

物見遊山:共鳴の庭-homeogryllus japonicus orchestra Vol.2-
http://d.hatena.ne.jp/monomiyusan/20050821#p1