9/8 エレン・フルマン@Super Delux

  • エレン・フルマン:Long String Instrument*1
  • Sachiko-M:サイン・ウェーヴ
  • 石川高:笙
  • ブレット・ラーナー:箏
  • 灰野敬二:パーカッション
  1. フルマン:ソロ
  2. フルマン+Sachiko-M
  3. フルマン+石川+ラーナー
  4. フルマン+灰野
  5. (アンコール)フルマン+灰野+ラーナー

まずは、少々長くなるが、フルマン女史の創作楽器 "Long String Instrument" を説明してみよう。写真撮れれば良かったんだけど、「撮影禁止」ってデカデカと貼り紙してあったんでね。
(^_^;;

  • でかっ。Super Delux のフロアの3分の1くらいを占拠して、Long String Instrumentが組んである。けっこうな客の入りなので会場狭い(笑)。
  • フロアの両端に、住宅用建材みたいなぶっとい柱で支柱を組んであり、その間に金属製の“弦”が、ピアノのチューニングピンを流用したと思われる金属ボルトで張ってある。
  • 弦は、かなり細い:エレキギター用弦の1弦・2弦くらいか?薄暗い照明(熱で伸縮するのを防ぐためか)の中で見ると、遠くのほうの弦は蜘蛛の糸のように殆ど見えないくらい。材質は、色からしてステンレス製と銅製の2種類ではと思われる*2
  • Long String Instrumentの“内部”は、中央がフルマン女史が歩くスペースになっている。その両側に、10〜12本の弦(弦間は琴よりもやや狭い程度)を1セットとした弦のコースが、左右に2セットずつ張られている。つまり合計40〜50本くらいの弦が張ってある。
  • http://www.otherminds.org/shtml/Gallery63.shtml ←この写真だと弦は左右1コースずつしか張られていないが、Super Deluxのライブではこの左右の外側に更に1コースずつ弦のセットが張られていた。グレードアップしているわけだ。
  • 弦の反対側の端、会場の一番奥には、昔の下駄箱か鳩小屋みたいな木製の箱が据え付けられていて、弦のもう一方の端が固定されている。これがどうやら共鳴胴になってるらしい。この箱に向けてPA用のマイクが立ててある。
  • 床には、距離を示す数字のラベルが貼ってある。数字は「15」まであったから、今回の全長は16メートルということになる。また床には、楽譜(?)か段取りを書いたインストラクションと思われる紙が無造作に撒き散らしてある。
  • それぞれの弦には、日曜大工に使うような小さな“万力”を数個とおして、色んな所にぶら下げてある。これはランダムに見えるがどうやら弦のハーモニクスのポイント(専門的に“ノード(節)”と呼ぶ)に置いてあるようだ。共鳴箱に書かれている数字は、このノードの位置のメモらしい。
  • http://www.justintonation.net/concert_01.html ←床の数字と、吊り下げられた万力の様子は、ここの写真で見ることができる。

こんな感じだったかな。あぁ疲れた。あとは上の説明とWebで画像をググって想像していただきたい、と。

フルマン:ソロ

なんかアメリカの学校の先生のような風貌のフルマン女史が弦の束を潜り抜けて登場、左右の弦に手をかざして、ゆっくり歩き始める。


ゥギョウィーーーーーーーンン


おぉ、アルバムで聴いたとおりの音。こういう変な楽器(失礼!)でアルバムどおりの音がでるとちょっと感動というかワクワクする。(後でアンコールの時に分かったんだけど)PAでエコーやリヴァーブを掛けている訳ではないようだ。


音的には、あえて単純に言えばインド音楽のラーガに使う楽器“ヴィーナ”が何台も一斉に鳴っているような音。幾重にも折り重なった倍音の束が、海中のイソギンチャクや海草が潮流に煽られてたゆたうように、ゆっくりとうねり、渦巻き、脈動する。


弦が蜘蛛の糸のように細くて見づらいので、よーく観ないと、ただ歩いてると音が出るように見えてしまう。フルマン女史は手の高さが常に一定になるように僅かに腰を落として、お能の歩みのようにスルスルと歩きながら、弦を僅かに擦って音を出していく。どうやら指先で擦って音を出し、手のひらの付け根あたりを当ててミュートを掛けているようだった。


触れる弦や“コース”を変えるごとに出音が刻々と変わっていき、また、指先を小刻みに震わせるようににて弦に触れると、トレモロやけっこうリズミカルな音も出せる。なので決して一本調子にならず、思いのほかバリエーション豊かな音が出ていた。

フルマン+Sachiko-M

フルマン女史のソロに続いて、Sachiko-Mとのデュオ。Sachiko姐さんはステージ壁際のデスクで、いつものサンプラーを操作。コンタクトマイクを使っているかどうかは確認できず。


この日のSachiko姐さんは基本的に、中音域(FAXの送信音の最初の「ピーーー」という音くらいの高さだったかな....)のサイン波を、周波数も音量も変えずオンオフもせずにただひたすら


ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と鳴らしていただけ、ごくたまにスイッチの接触不良音を「ブツ、パリパリ」と入れる程度だった。


ただそれだけだったのだが、フルマン女史が歩き回って(ちなみに後退するときは振り返らずにそのまま後じさりする)色々な周波数の音を出していくうちに、倍音とサイン波が共鳴したときには全体の音量が「グワッ」と上がり、打ち消しあったときには「スッ」と落ちる、という現象が起こった。


音の“モアレ”。または音で出来た“波の来るプール”。


よくリング・モジュレーターやシンセの波形合成の解説で、グラフの図やオシログラフの画面で「サイン波とサイン波を掛け合わせるとこんなに複雑な波形に」という説明があるけど、それをボディソニック味わってるような感覚。

フルマン+石川+ラーナー


やはりLong String Instrumentの向こう側、壁際に、客席から見て左にラーナー氏、右に石川氏が着席。


笙の奏でる和音を追いかけるようにLSI(略すとシリコンチップみたいだ)の音が立ち上がる。聴いてみるとLSIと笙の音の倍音構成は良く似ている。なので途中、笙の音がLSIにかき消されてしまう一面も。


そのせいなのか、途中から石川氏はロングトーンで音を延々伸ばすのよりは短めの断続的な音を散発的に吹くような演奏に転換。ちょっと消化不良気味というか、フルコンタクトの試合が途中から当てなくなっちゃったみたいな感じになってしまった。


ただし、石川氏は盛んにヒーターで楽器を温めなおしたりしていたので、笙のコンディションがもしかするとあまりよくなかったのかも。湿度の高い季節の地下室の壁際だもんな。

フルマン+灰野


灰野氏はLSIの手前側の床に各種パーカッションを並べて、楽器を次々と持ち替えて演奏。使った楽器は主に下記のとおり。

  • バッグに入った発信機?(↓タンブーラマシン?)

http://www.tablakatabla.com/e-frame.html

  • フレームドラム
  • スリットの入ったアルミの円盤?詳細不詳
  • 民族楽器系シンバル
  • 金属棒を並べたチャイム
  • 名前忘れたけどこれ↓(2003/04/12)*3

http://www.azxy.net/etc/planb/wd200304.html

  • 金属製のフィルムを束ねたガジェット

それぞれの楽器を叩いては、手をかざして残響のうねりをウィンウィンとコントロールしたり、楽器を二つ同時に鳴らして近づけたり離したりして共鳴の具合を変えたりしていた。フレームドラムは、楽器を上に乗っけて一種のスピーカーのようにして使っていた。


面白かったのが、最後のほうで使った楽器(?)。映画の35ミリフィルムくらいの幅の、黒くて長い金属のリボンを数本束ねたものに木の握りをつけてある。これを激しく振り回して風が唸りをあげるような強烈なワシャワシャワシャ!という音を発するの。なんだろう、映画やテレビの効果音の道具みたいなものなのかな。近くで当たったら怪我しそうで怖かった(笑)。


アンコールは急遽、フルマン+灰野+ラーナーで短めに。灰野氏はヴォーカルで不失者風の情念サイケ歌唱。ラーナー氏は筝の柱を全部同じ位置に並べてバララララと弾き下ろすのを繰り返す。いかにも付けたしという感じでこれは要らなかったかなぁ。


この日はなんといってもSachiko-M+フルマンのデュオがベストバウトだったっす。Sachikoさんのブレないところというか肝の据わりっぷり(そんでもって結果を出すところ)は、凄えなぁ。

*1:当初参加予定だった中村としまる氏はキャンセルになった模様

*2:海外のサイトの説明では“ブロンズ”とある。

*3:たぶん譚盾(タン・ドゥン)のウォーター・パーカッション。水は入れてなかったけど