1/24 豊住芳三郎ストリングトリオ + one
http://www.realdoor.com/iru/irusworks/works.html
- 豊住芳三郎(アールフー,定鼓)
- 今井和雄(G, Electronics, Viola da Gamba)
- 入間川正美(Cell0)
- Sachiko-M(Sinewaves,Contact Microphones)
豊住さんの新プロジェクト。入間川さんによると、前回は豊住・入間川・EXIAS-Jの谷川卓生(Electronics,G)という編成だったようだ。
豊住さんの楽器“アールフー”は、いわゆる胡弓。定鼓というのは良く分からない(普通のドラムセットだったけど...)。
今井さんの使ってるクリーム色の古楽器はトレブル・ヴィオラ・ダ・ガンバとかトレブル・ヴィオールgoogle:treble violというらしい。俺、古楽は全くもって門外漢なので知らなかった。何しろヴィオラ・ダ・ガンバってチェロみたいな楽器だとてっきり思ってたくらい無知なんで...(某SNSサイトで教えていただきました。感謝です→杉本さん)
こんな風にして弾くらしい。
http://www.bbc.co.uk/birmingham/local_events/2004/09/artsfest/gallery6/4.shtml
ギターは、かなり古めの(もしかして戦前?)小型ボディのジャズ・ギター。前にお話したときに確かエピフォンと言っていたような。
また、エレクトロニクスと言ってもPC・デジタル機材系のものではなく、テーブルに、コンタクトマイク、ミキサー、各種エフェクター、エレキギターの練習用とおぼしき小さなアンプ、バネやボルト等のジャンクメタルをゴチョゴチョと用意してあった。
ライブは、十分くらいずつの短めの演奏でメンバーを次々と入れ替えていくという形で進行。
【前半】
1 胡弓 チェロ ギター
2 胡弓 サイン波 ギター
3 ドラム サイン波 チェロ
4 全員で:豊住=胡弓 今井=エレクトロニクス
- 豊住:口でチューチュー鼠の鳴き声のような音→胡弓+弓でシンバル叩く
- 入間川:つぶやくようなピチカート→神経症的な(?)不穏な雰囲気のアルコ
- Sachiko:「ブツブツ」というマイクの接触音
- 今井:ミニアンプ(?)をハウリングさせた状態にしておいて、スイッチをOn/Offしたりヴォリュームを上げ下げしたりする演奏。ちょっと手を離すと「キーーーン」と大音量でハウっちゃうのを押さえ込みながら。アンプ(?)は完全に発振するような状態になってて、手をかざすとテルミンみたいになる。
【後半】
休憩挟んで後半は、豊住さんが外れた3人からスタート。
1 チェロ サイン波 ヴィオラ・ダ・ガンバ
- Sachiko:「ピーーーーーーーーーーー」→後半は珍しくサイン波2音。周波数の異なる波の起す“うねり”を聴かせる。
- 入間川:アルコで断続的・断片的なフレーズを。間の多い途切れがちな演奏
- 今井:ヴィオラを両腿で支えて、アルコやピチカートで。小刻みなトリル。小鳥が囀るような。けっこう激しい演奏だが、楽器としてあまり音量が出ないのとアンプリファイしていないので、耳障りには感じない。両手でタッピング:ちょうど“チャップマン・スティック”google:Chapman Stickの奏法のように。
2 再び全員で 今井=エレクトロニクス+ヴィオラ・ダ・ガンバ 豊住=ドラム
このセットでイニシアティヴを取ったのは今井氏のジャンク・メタル・エレクトロニクス。
- Sachiko:珍しく、周波数低めの「ポーーーーーーーーー」という音(電話の受話器を上げたときの音に似ている)→「ツピッ」という鳥のさえずりのような短い音へ
- 豊住:ブラシでシャカシャカとあっちこっちを擦りまくる。かがみ込んでバスドラを擦ったり。また、ハイハットを叩いていわゆるジャズっぽいブラシ奏法も。徐々に音量デカくなって、フリー・ジャズっぽい怒涛の叩きまくりに移行。
- 入間川:ピチカート→アルコetc 豊住さんのドラムと呼応するかのように徐々にアグレッシヴな演奏に。原田淳氏(ds)とのデュオにおける演奏スタイルに近い。
- 今井:この日出色の演奏。
- テーブルの上にコンタクトマイクを貼り付けた金属製のトレイか板のようなもの。棒で擦って、様々な音:虫の声・鳥の鳴き声のような音を出す。
- 四隅に取り付けたバネをはじいてスプリング・リヴァーブのような音を
- テーブルの上に木片を落とす:幅2cm×長さ10cm位の軽く薄い板を十枚くらい。乾いたいい音。次々と持ち上げてはテーブルのうえに落とし、インドネシアの楽器“アンクルン”google:アンクルンみたいな音に。さらに、コンタクトマイクをオンにした音とオフにした音を交互に出して、音色の違いを聴かせる。
- テーブルの上でコインのコマ回し(立てておいて指ではじくヤツね。みんなやったことあるでしょ?)の音をコンタクトマイクで増幅。何枚も回し、さらにエフェクターのディレイをかけて音の数を増やす。シャワシャワとコインが回る音と回転が遅くなって倒れて止まる音がステージを満たす。
- テーブル上の鉄板をスーパーボールで擦ってコンタクトマイクで増幅。人の声や動物の鳴き声のような音。ハンス・ライヒェルのダクソフォンgoogle:ダクソフォンのような音でもある。
- 豊住さんがフリー・ジャズ調ドラミングに移行するとヴィオラ・ダ・ガンバに持ち替え、アルコで演奏。なんかテープの逆回転を思わせる音が美しい。
全員の演奏が収まってきて、あぁそろそろ終わるかな...と思ってた矢先に、豊住さんが再び「ドカドカドカドカッ」と叩き始めて、自主アンコールみたいな(笑)短めの演奏があって(心なしか他のメンバーに“しょうがなく付き合う”という空気が流れた気がしたのは俺だけだろうか?)終わり。
とまぁ、こういう内容だった訳だが....。
長々とレビューしてきてこんなこと書くのもなんだが、うーん...。まだ、豊住さん試行錯誤中、という印象を受けた。
「ニューグループを結成」とPIT INNでも銘打ってた訳だし、豊住さんの構想として“新たなプロジェクト”という意識はあると思われる。だが、この日のライブではプロジェクトと呼ぶに足るだけの化学反応とかサウンドの緊密さというものは感じ取れなかった。
実験、音響、インプロ、サウンドアートetc、呼び方は何でも良いのだが、そういうユニットやプロジェクトでも、やはり、“バンド”的なつながりや緊密さや化学反応や、またはいわゆる“マジック”って、大事だと思うんだよね。集まって一緒にやることで、出る音が1+1+1+1=4じゃなくて、「4倍」とか「4乗」になるみたいな。
ロック・バンドやジャズのグループってそういう化学反応とかマジックって、極めて重視されるものだけど、ロックやジャズみたいな“熱い”音楽の対極にあるこういう音楽でも、やはりそういうのは必要だと思う。
この日は残念ながら、1+1+1=4のままだったなぁ。まずは“はじめの一歩”的なセッション、ということだったのだろうか。
あと、どうしても“フリー・ジャズ・ドラマー”の血が騒いでしまってクライマックスを演出せずにいられない、サブさんの一種天然な“堪え性の無さ”というのも、うーん、ちょっとなぁ....(汗)と思ってしまった。
とはいえ、積極的に若手(?)と交流して、決して歩みを止めることなく果敢にチャレンジし続ける豊住さんの活動は深くリスペクトしているし、4人とも卓越したアーティストであることは間違いないので、今後、どんな風に“大化け”するかは、非常に楽しみでもあるのだ。
あるとき突然とんでもないレヴェルの表現に達して「あぁぁ、あん時は若造がとんでもない失礼なレビューを書いて、申し訳ありませんでした!」と平伏することになる日を、楽しみに待つことにしよう。