バートン・クレーン作品集

んで、飲み会で掛けてたら一番ウケて爆笑されてたのがコレ。


バートン・クレーン作品集 -今甦るコミック・ソングの元祖-


バートン・クレーン作品集」(NEACH-0123) - (株)ブリッジの通販サイトより
http://bridge-inc.net/store/index.php?p=productsMore&iProduct=2595

昭和6年(1931年)、日本の流行歌の中にジャズ、コミック・ソングの要素を取り入れた外人歌手、バートン・クレーンが1枚のレコードをコロムビアから発表しました。
これが日本語で歌う外人歌手第1号となった「酒がのみたい/家へかえりたい」でそのカタコトの日本語が受けて図らずも大ヒットとなりました。


俺がこの人を初めて知ったのは、吉田アミさん、浜田真理子女史、web-cri.comの野々村氏etc、各方面から絶賛を浴びた“ふちがみとふなと”の傑作アルバム『ヒーのワルツ』でカバーされていた「ニッポン娘さん」「威張って歩け」である。


ふちがみとふなと へな web

http://www.asahi-net.or.jp/~cp3j-fcgm/
http://www.asahi-net.or.jp/~cp3j-fcgm/WaltzForHii.html


かねてより原曲を聴いてみたいなぁとずっと思ってたのだが、高円寺「円盤」(http://www.enban.org/)に行った折にアルバムが置いてあったので即購入。


この人の経歴、下記の参考サイトをご覧いただきたいのだが、かいつまむとこんな感じ:

  • 米国・長老派教会の牧師の息子
  • プリンストン大卒
  • 新聞社の特派員として来日
  • 宴会で英語の歌を日本語の替え歌にして歌っていたところ、レコード会社の社長に面白がられて*1レコードデビュー
  • 帰国後、ニューヨークタイムズ紙の経済記者に
  • 戦時中は諜報機関により中国に派遣
  • 敗戦後、ニューヨークタイムズの特派員として再来日
  • 晩年は母国で経済コラムニストとして活躍

エリート中のエリートである。では、そのエリートがどんな歌を歌っていたか、聴いてみよう。


CD冒頭は、クレーンのデビュー曲にして最大のヒット曲。軽快なマーチのリズムに乗って歌われる「酒がのみたい」。

酒飲みは 酒飲めよ
酒あれば オイ!怠け者
水は とてもおいしい が
酒飲めば 僕楽しい

万歳!乾杯! 養老の瀧が 飲みたい
もしなければ スットコドッコイ
酒飲め 酒飲めよ

ダメ人間だ。ダメ人間の歌だ。「スットコドッコイ」というのが上手く発音できなくて「ストッコドコイ」になっちゃってるのが、更にトホホ感増大。


2曲目、「家へかえりたい」はこんな具合。

家へ帰りたい 野心がありません
頭が痛い おなかが大変
僕の考え 何もできません
それから じき行きましょう また来年

ダメ人間だ。ダメ人間の歌だ。「野心がありません」ですよ?「何もできません」ですよ?こんなに情けない歌詞があるでしょうか。


3曲目は女房をして「『のだめカンタービレ』に出てくる“ミルヒー*2みたい(-_-#)」と言わしめた「ニッポン娘さん」。

東京の娘さん こんにちは 東京の娘さん いかがです
銀座ガール つれない いつでも冷淡
ポクポク子馬


アルバム全編、音楽のアレンジは陽気で軽快なディキシーランド・ジャズやマーチやワルツやポルカ。曲は多くは海外の民謡などの有名曲:「月光値千金」「リパブリック賛歌」「アルプス一万尺」etc。


そして歌詞は、全曲こんなんばっかである。酒とナンパと「僕こんなにダメ」という。


リパブリック賛歌の有名な "Gloly, Gloly Hallelujah" というリフレインは、こんな替え歌に変えられて:

どなたかやるじゃろ オイラは知らないよ
よろしく頼む 酒持って来い


米国のボーイスカウト・ソング "It Ain't Gonna Rain No More" にいたっては:

僕は君に惚れたし 君も僕が好き
でもお金がなければ 生きられない
君背中を向ける 僕下を向く
いくじがないから 仕方がない

(中略)

産業合理化なんて 誰が言い出した
僕には妻子があり 二号まである
どうせダメなものなら 殺しておくれよ
このまま生きていても 仕方がない

金がなくて意気地もない、妻子も二号さんもいる、それでもナンパ。最低である。これほど最低な歌詞があったでしょうか。


こんな歌がCDの収録時間びっちり、70分強、全25曲詰め込まれているのである。


そんなアルバムであるにもかかわらず、聴き終わった後、心の底から晴れ晴れとした気分になるのはなぜなのだろう。我が家ではヘヴィー・ローテーションになっており、女房からは「あの曲が耳について離れない」というクレームの携帯メールがきたりする今日この頃である(笑)。


純粋に音楽として聴いても、明らかにクレイジー・キャッツを30年先取りした面や、“ブルースの女王”になる前の、淡谷のり子先生(コケティッシュな歌声が堪らない)とのデュオなど、聴きどころは多い。



参考サイト:
趣味趣味音楽中年探偵団- プロデュースした石川氏のサイト
http://www.jah.ne.jp/~ishikawa/
http://www.jah.ne.jp/~ishikawa/Burton.html


バートン・クレーン覚書
http://camp.ff.tku.ac.jp/YAMADA-KEN/Y-KEN/fulltext/02BC.html
必読。東京経済大学教授・山田晴通氏による。さすが、学際的な正確な記述で素晴らしい。


バートン・クレーンの部屋
http://yamaton.hp.infoseek.co.jp/ba-ton.html


通販ピックアップ バートン・クレーン
http://www.petsounds.co.jp/page010.html
武蔵小山の超マニアックなレコード屋「ペットサウンズ」のサイト。ここでだけ通販特典のバッジとシールが付くらしい。馬鹿だ(←絶賛のコトバ)

*1:山田教授によるとこのエピソードのウラは取れていないらしい。

*2:指揮者フランツ・フォン・シュトレーゼマン。詳細は→http://ja.wikipedia.org/wiki/のだめカンタービレ