炎のアンダルシア
ということで、イスラム映画界からのキョーレツな反・原理主義テーマの映画をご紹介*1。
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2003/10/25
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http://cineaste.jp/l/956.htm
舞台は12世紀、文化の都アンダルシア(現在のスペイン南部)。自由を愛する哲学者アベロエスは、君主カリフの息子たちを初め多くの弟子を持ち、人々の心からの尊敬を得ていた。それを心良く思わないイスラム原理主義者の集団「緑の服」は、アベロエスの思想を抹殺し、君主カリフさえをも失脚させようと暗躍する。
http://store.nttx.co.jp/_II_D110956165
12世紀に実在した人物を主人公に、 彼と周囲の人々の運命を描いた歴史絵巻。随所に華麗な音楽&ダンス・シーンを織り交ぜながら、 思想弾圧への抵抗を描いた愛と冒険の物語が展開する。インドと並ぶ映画王国・エジプトのパワーを実感する事が出来る、 見応えある一作だ。1997年カンヌ国際映画祭第50回記念特別賞受賞*2。
....という映画なのだが、決して鹿爪らしい政治思想系映画じゃなくて、娯楽色も強い。....だけど....なんというか、何ともコメントに困るような映画なのだ orz
「薔薇の名前」へのイスラムからの回答とも言うべき重厚な歴史劇の一方で、弟子たちが繰り広げる「歌って踊って恋をして」というインドのマサラ・ムービー調スチャラカ・ミュージカルが並行して進むという(笑)。
クライマックスには、原理主義者に洗脳されちゃった王子様を拉致ってきて椅子に縛り付けておいて、その前で「ムトゥ・踊るマハラジャ」ばりに歌って踊って、マインド・コントロールを解くという、トンデモねぇ、恐らくミュージカル映画史上最もラディカルなシーンが展開するのであーる。スーフィーズム対原理主義のハルマゲドン。まさにジハド。
そのスチャラカさはともかく(笑)、以下はマジレス。
今回なぜ紹介したかというと、この映画の中では原理主義が台頭する混乱した世相の“背後にいる人々”の様子がきっちり描かれているからだ。
- 原理主義教団へ忠誠を誓わせる方法が、洗脳とマインドコントロールによるものである
- 染まっちゃった男の子に対して、やっぱ友達は引き、親や恋人は泣いている
- 街なかで武器振り上げて気勢をあげてる連中を、カタギの商店店主なんかはやはり迷惑に思ってる
....という至極まっとうなことを、このエジプトの映画監督*3は度重なる弾圧に耐えて、西側の我々に伝えてきてくれている。
かつてスティングが冷戦時代(旧ソ連が米レーガン政権に“悪の帝国”呼ばわりされていた頃)に "Russians" という曲で歌った "The Russians love their children too" という歌詞は今、"The Muslims〜"という歌詞に書き換えられて歌われなければならない。
こんな時だから敢えて、俺たちはユーセフ・シャヒーン監督が命がけで送ってくるメッセージを今一度受け止め直さなければならないと思うのだ。
なぜなら人間の想像力こそが、爆弾とカラシニコフ銃の向こう側にある、隠れた真実を見通すことができるはずなのだから。