レビュー:4/29 Loop-Line 3rd Anniversary その2


前の週(http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20060429#p1)に引き続き、Loop-Lineのイヴェントに行ってきた。今回は、先週のドリーミーでチルアウトするようなパフォーマンスが主体だったのとは打って変わって、エクストリームな表現がメインになった。


2006年04月29日 2006 Loop-Line 3rd Anniversary
http://www.loop-line.jp/2006/04/more.html#a000023

  1. 稲益寛明(PowerBook), 伊藤匠(sax)duo
  2. 吉村光弘(microphone feedback),曽田陽(amplified sax) duo
  3. Samm Bennett(percussion, vibrator),坂本拓也(sampler,effecter) duo
  4. 伊東篤宏(optron),大島輝之(guitar,PowerBook) duo

来月アルバムが出るというRyusenkei-Body(http://www.ismusic.ne.jp/rsk-b/)から稲益氏と伊藤氏のデュオ。伊藤氏はサックスのカップにマイクを突っ込んであって、それがエレキギター用のアンプに繋いである。んで、マイクとアンプの間でフィードバックが起きるのを、サックスの位置を動かしたりずらしたりすることでフィードバックをコントロールするっつう感じかな?このときサックスは吹奏する楽器というよりは単なる金属柱として使われてるみたい。


けっこうヴァイオレントなSaxのフィードバック音とPowerBookのノイズからスタート。PBによるドローンっぽいノイズと、フィードバック音と普通に(?)サックスを吹く演奏が交互に行われる。


後半、伊藤氏はジャジーでブルージーなブロウを吹き始めて、ノイズ+サックスのブロウという形に。こういう“ノイズ+普通の普通の演奏”って俺普通は懐疑的なのだが、このときは良かったな。ハードボイルドな雰囲気で。


二番手は吉村氏と曽田氏のデュオ。ステージ側も暗くして、暗がりの中、二人のシルエットだけが見える中での演奏。


曽田氏は伊藤氏とは違って、カップにコンタクトマイクを仕込んだ上に布でミュートして音を拾い、フィードバックはヴォリュームペダルでコントロールしていたようだった。シルエットで見る曽田氏は、カタチとしては全くサックスを吹く格好以外の何ものでもないのだが、出てくる音は全く違う「ブツ・ブツ・ブツ」という接触不良音なのが面白い。(^-^)


吉村氏はいつもの吉村氏、ワン・アンド・オンリーなフィードバック音。非常に繊細で何度聴いても飽きない。ノンPAであそこまで通る音なのもやはり不思議だ。中村としまるのミキサー、Sachiko-Mのサイン波以来の“発明”だと思う。


続いては、analogicの坂本氏がソロで、サム・ベネット氏と共演。


ベネットさんの使用楽器、事前の告知ではWavedrumって書いてあったけど....。
Wavedrumってコルグの↓こういう楽器だけどさ。使ってたっけ?使ってなかったよね。
http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/Museum/WAVEDRUM/


これはエレクトロニック・パーカッションなのに、打面がゴムパッドのセンサーじゃなくて、普通のドラムヘッドを張れるっつうのが画期的だった製品なのだが、あまり売れなくてすぐ絶版になったはず。早すぎた製品というところか。構造やコンセプトは、今の時代、かえって需要あると思うんだけど。


でもググってみるとgoogle:Wavedrum、「Wavedrum wanted!!!」「Korg Wave-Drum買取します 250.000 円」とかって、けっこうヴィンテージ機材としてプレミアついてんのね。高けーよ!今、これ数万円で出せば売れると思うんだけどな。時代はRoland TRでもカオスパッドでもなくWavedrumだぜ!なんつって。

ということでこの日のベネット氏は、フレーム・ドラムや金属製のダラブッカにバイブレータを当てて鳴らす、というパフォーマンス。始まるとあちこちからクスクスと忍び笑いと、「...いいのかよ...」という呟きが。いや、決してエッチなバイブレータではなかったのだが(笑)。


ちなみに使われていたフレーム・ドラムとダラブッカは、どこの国の、正式には何という名称なのかは不明。この形の楽器、どちらも世界中に広まってるもんね。


google:フレーム・ドラム][google:ダラブッカ


でもね、この演奏が素晴らしかったのだよ。まるで水墨画がモノクロの筆致でセカイの全てを描きうるように、2つのパーカッションにバイブレータを当てる位置・強さを変えるだけで、驚くほど豊かな音楽表現を引き出していた。フレーム・ドラムからは重低音のドローンや、スネア・ドラムの高速のパラディドルのような連打を、ダラブッカからは夕立の雨粒がトタン屋根で跳ねるような音や、金属胴に当てれば耳障りなノイズを。この日の演奏では一番音楽性高かった。これはさすが長いキャリアが物を言ったというところか。


一方の坂本氏は、けっこう苦戦。まだあんまりソロでのパフォーマンスのキャリアは踏んでないんだっけ。エフェクターサンプラーを駆使して次々と音を繰り出していくのだが、音の間が空くのがまだ不安なのかな。音で埋め尽くそうとするような演奏なんだが、余裕が無くていっぱいいっぱいな感じが伝わってきてしまう。こんなアブストラクトなノイズでもそういうことが伝わるんだから、音楽って不思議というか、怖いねぇ。でも、後半、かなり持ち直して、間を多めに取るよさげな演奏に変わってきたのは立派。ベテランを相手によく持ちこたえた。(^^)


この日のトリ、伊東&大島デュオは、一番凄まじい演奏だった。ズバババッバババ!ビャウ〜という伊東市オプトロンの例の爆音。大島氏のギターの音は、爪弾かれた傍からPowerBookの中でシュレッダーのように切り刻まれて、断片になったりオクターヴ上がったり逆回転したりしてスピーカーから排出される。とてつもなく“速い”感じがする演奏。なんか60年代ヨーロッパ・フリーの名盤、ペーター・ブロッツマン・オクテット "Machine Gun"(FMP 1968年) の演奏を思い出した(音が似てるとかいうことは全くないんだけどさ、連想として)。


Machine Gun

Machine Gun

↑脱線するけど、コレ、若い子が聴いて暴れるにはうってつけかと。ハードコア・パンクとかノイズ聴いてる子にも。


そういえば、俺思うんだけど、フリー・ジャズやインプロのハードな演奏の音はよくマシンガンの音に例えられるけど、フリー・ジャズの音をマシンガンの“弾丸”に例えたとすると、フリー・インプロヴィゼーションの音は、マシンガンの“薬莢”のほうなんじゃないか、と。

弾丸と薬莢のサイクルを比べると、こんな感じになる:

  1. 弾丸:撃発→発射→排莢→弾丸の飛行→着弾
  2. 薬莢:激発→発射→排莢

音が“鳴り終わる”というか“発せられて終わる”までのサイクルは、2のほうが“速い”。速い分、次々と打ち出していけるとか。これが、間章阿部薫が言った“速さ”というものなんじゃないかな、なんてね。



関連サイトとブログをリンクしておこう。

「loopline3周年だった」- di(大島輝之氏のブログ)
http://hello.ap.teacup.com/ohshima-sim/176.html
3周年終了 - Loopline's Room
http://d.hatena.ne.jp/loopline/20060430/p1