Step Across the Border

...なんてことを思い出したのも、4/10に、フリスを追ったドキュメンタリー映画 "Step across the Border" の再映をユーロスペースに観に行ったからである。よねもとさん、その節はどうもでした(私信)。


ユーロスペース
http://www.eurospace.co.jp/
特集上映「フレッド・フリス&THIS/MEET THE MUSIC」
http://www.eurospace.co.jp/detail.html?no=14

MEET THE MUSIC 音楽シネマの夜
http://www.p3.org/stepacrosstheborder/index.html

1988から90年、音楽に誘われてロンドン、チューリヒ、東京、ライプチヒ、NYと世界中を演奏して歩くフレッド・フリス。それを追うシネノマドはもはや撮影者ではなくなり、フリスの音楽世界のかけがえのない要素となって相互に影響を与えあう。おでん屋台、高架橋、地下鉄、スタジオ、岸壁と、いたるところに音楽は生まれ、ジョナス・メカスアート・リンゼイら異才たちの姿が交差する。これほどまでに作為のない美しい映像作品が他にあるだろうか。

残すところ4/13、4/14のみなのでお早めに。


いやぁ、いいなぁ。久々に観たけど、素晴らしいですね。モノクロの粗い粒子のフィルムの質感が、荒々しかったり荒削りだったり洗練を拒絶したような音楽と、街の雑踏の音にピッタリ合っている。


Massacre "Killing Time" やフリスのソロ "Speechless" からの曲を聴くと、今でも頭の中で血が逆流するのが分かる。いわゆる「擦り切れるまで聴いた」アルバムだもんね。映画でフリスが弾いてるストラト型のギターは、確か昔のインタビューで「無茶なチューニングにするからネックが木材では保たなくて、カーボングラファイト製のにしている」とか言ってたと思う。ギャリギャリという耳障りな音がかっちょいい。


今見ると、日本ロケの風景がバブル突入の時代とは思えないくらいビンボー臭い(笑)のが不思議だ。高度成長期の画面だと言っても区別がつかないだろう。


粗いモノクロ画面、荒っぽい(または荒っぽく見せかけた)カット割りと相まって、なんか、ヌーヴェルヴァーグの映画を思わせるね。フランスのヌーヴェルヴァーグと、日本の松竹ヌーヴェルヴァーグが1本の映画に共存してるみたいな。

みたいな感じ(い、いや、冗談ですよ...)。


ヌーヴェルヴァーグっぽさということでいうと、この映画で“ミューズ”の役柄を果たしているのはずばり、イヴァ・ビトヴァだ。屋外の明るい木陰で、ヴァイオリンをウクレレのように胸に抱えてポロンポロンと爪弾きながら歌うイヴァ・ビトヴァは、弾けるような健康的な魅力に溢れている。エキゾチックな顔立ちとクシャクシャのブルネットの髪、ワンピースの裾からこぼれる太股が眩しい(って何の話だ)。


その一方で「こんな報われない人生なんていつまでも続けていられない」とかぼやきながら、狂った文学青年が突然マシンガンを乱射するように爆裂痙攣ノイズギターを炸裂させるアート・リンゼイの屈折と屈託も、それっぽい感じ。(そういえばこの人も昔から同じギター使ってるな:ダンエレクトロの初心者向けエレキ。去年のコーネリアスとのセッション写真でも同じギター抱えていた)


よねもとさんに言われて初めて気付いたんだけど、この映画、音楽のドキュメンタリーには珍しくモノラル録音なのね。たまたま来日していた監督のベルナー・ペンツェルさんがこの日ちょっと舞台挨拶に立ったのだが、終演後よねもとさんが質問したところによると、ただ単にもともとモノクロで録音されてたから、という回答だったそうな。何かコダワリがあったわけではなかったのね(笑)。


俺はDVDを買って、ペンツェル監督にサインをしてもらった。