9/6 松本・入間川・後藤@なってるハウス

松本健一(sax) SOLO大会/入間川正美(cello)後藤篤(tb)
http://members.jcom.home.ne.jp/knuttelhouse/schedule0509.html

  1. 後藤ソロ
  2. 入間川ソロ
  3. 松本ソロ
  4. トリオ演奏1
  5. トリオ演奏2

後藤氏は椅子に座って、いわゆるフリー・ジャズ、フリー・インプロではなく、ブルースのアドリブ中心のソロ。ミュートを入れて2曲、ミュートを外して4曲くらい。「ダニー・ボーイ」「サマータイム」などスタンダードも含む。


なんか、他に伴奏楽器なしでジャズのボントロのソロを聴くのは不思議な感覚。こんだけ最小限の音というと、ジミー・ジュフリー3におけるボブ・ブルックマイヤーくらいしか聴いた事がない(あっちだってギターとサックスが入ってるしな)。後藤氏のアタマの中で鳴っている“他の楽器の音”を想像しながら聴いてると、一緒に演奏してる気になってくる。


入間川氏は、黒いカーボンの弓を使っての演奏。


弓を弦の上で円形に回すようにして擦り、“さわり”のノイズを常に出しながらといった感じの演奏。高音弦で小刻みなトリルを繰り返すとみるや今度は低音弦で伸びやかなロングトーンを。比較的短いパッセージを断続的に弾いて行く間の多い演奏だが、間が多くても緊張感が途切れることがない。


常にどこかで弦が擦れる音がしている中、小刻みで痙攣するような神経症的な高音域のトリルや、人のため息や唸り声のような低音が混じる。続いて大音量の低音のアルコに。ここでは非常な高揚感を感じた。弓で弦を激しく叩いて弾き、続いて弦全体を円形に擦って、人がゼイゼイと荒い息を吐いているような音を出して、終わり。


素晴らしかった。なんつうんだろう、矛盾した表現だけどストイックな表現主義。不穏で禍々しく。ただ事でない緊張感。


松本氏は、"Diver" で聴けるようないわゆる音響ノイズ的な音よりも、澁谷クラシックでの「誕生日記念ソロ」でも聴かれた、太いツヤのある音を中心にしたソロ。手癖やクリシェに行きそうになる所をうまくヒョイとかわして次の展開に移って行く感じ。時折、体の向きを大きく回転させて、ラッパの音の鳴りを変えてみせる。人力レスリー・スピーカーというか。


太く押しの強い音が出ていても重ったるさやもたつき感がないのは、この一種の“身軽さ”からきているのだろうか。決して音が軽いという訳ではないのに軽やかな印象なの。こういうのは、演奏家としての松本氏が好調というか上り調子にあるからなのかな。


トリオ演奏では、入間川氏は弓の背の側で弦弾いて、その後弦全体をストロークするようにして弾く。松本氏は息音中心。後藤氏もソロの時と打って変わってアブストラクトな演奏を。その後、自然に入間川氏と後藤氏がリフを弾き始めて、その上で松本氏がソロを吹いて、いったん終演。


「もう少しやりますか」ということで、アンコールで短めの演奏。ここでは入間川氏はアルコではなくピチカートでミニマルなシーケンスのアルペジオを延々引き続ける上で他の二人がやはりアブストラクトなラインを吹き続ける演奏。弦楽器の奏法がピッキングなので、前衛化したジミー・ジュフリー3みたいな感じ。


この日は、なんといっても入間川氏の演奏が白眉だった。いわゆる前衛的な演奏が本来湛えていたはずの不穏で禍々しい雰囲気。ご本人は非常にストイックに、禁欲的なまでにケレン味を廃した演奏なのに、何かデモニッシュな空気が漂っていた。現代音楽のリスナーで、現代音楽が本当にヤバい音楽だった頃が好きな人にも是非聴いてもらいたい。


ふと思ったのだが、入間川氏には、黒沢清のホラーのサントラを担当してほしい気がした。あるいは、あの本当に怖い漫画「臥夢螺館」(福山庸治)がアニメか映画になったらサントラやって欲しい。


これは9月のソロ演奏が楽しみだ。場所分かりづらいけどね(笑)。


9月16日(金)17日(土)18日(日)
セロの即興もしくは非越境的独奏 入間川正美 (VCL) SOLO
http://www.realdoor.com/iru/
http://www.realdoor.com/iru/irusworks/works.html


入間川氏については、web-criの野々村氏によるレビューが詳しい。
("Brief Report" の "04/09/25")

http://www.web-cri.com/
http://www.web-cri.com/review/0409_irumagawa-solo_v01.htm