赤塚不二夫のことを書いたのだ!!


赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

よく描いた!よく飲んだ!
伝説の赤塚番「武居記者」がぜ〜んぶ書いたのだニャロメ!!

著者は「レッツラ・ゴン」で「タケイ記者」として登場、作品上で作者の赤塚と熾烈な抗争(笑)を繰り広げていた名物編集者。今で言うと「コミックビーム」における桜玉吉vs奥村編集長コンビの元祖にあたる人だ。


赤塚が現在入院中の病院での光景から書き起こし、赤塚の生い立ち、トキワ荘の面々をはじめとする漫画家たちとの交友、数々のマンガ雑誌と作品成立の経緯、アシスタントが次々と一人立ちしていく名伯楽としての一面、「現実の世界にバカボンの世界を持ち込もうとしていた」とされる破天荒で飲んだくれの日常が語られる。


武居氏の文章は読みやすく、過度にセンチメンタルに流されない乾いたユーモアのある文体*1。全盛期の赤塚不二夫を知らない読者にも面白く読めるだろう。昔のマンガに興味のある人、「コミックボックス」誌の読者とか、NHKの「BS漫画夜話」をつい見てしまう人は、必読。


俺が嬉しいのは、赤塚マンガで一番好きな「レッツラ・ゴン」を、赤塚自身「やりたいことを全部やった」と満足して、代表作と捉えていたことだ。


「レッツラ・ゴン」は不条理マンガの先駆であり、そのピークではダダイズムゴダールヌーヴェルヴァーグ映画のレベルまで突き抜けてしまったマンガだった。

「バーロー!タケイ!あとはオメーが描け!」
(ここから先はタケイが描いた)

とかいって突然マンガが中断して、ドヘタなんてもんじゃない、何描いてあんだか分からない(ダウンタウンの浜田がクイズで無理矢理描かされる絵くらいのレベル)絵が描かれてたりして。あー、もう一度読みたくなってきた…。


それにしても…。


テレビ・映画・マンガetcの「笑い」で昭和時代に一世を風靡した人間の、訃報や不幸を知るのは、キツい。


この本では冒頭でいきなり、現在の赤塚不二夫は脳内出血で倒れたまま、既に3年、寝たきりで意識不明であることか明かされる。知らなかった…。かなりショックだ…。


日本のストーリーマンガ(劇画)は手塚を嚆矢とし、ギャグマンガは赤塚から全てが始まったことに異論のある者はないだろう(なにしろ登竜門の名称からして「手塚賞赤塚賞」なのだから)。


かつて都市伝説として膾炙した「ドラえもんの最終回」という噂話では、ドラえもんのお話は全て、事故にあって植物状態になったのび太の脳内で繰り広げられた夢だった、というものだった。


日本のギャグマンガは全て、今も眠り続ける赤塚の夢の中での出来事なのかも知れない。


だがその“夢”に赤塚自身が登場することは恐らくもうない。その事実が、重いボディブロウのように腹に堪える。

*1:団塊世代前後の出版人/演劇人の文章って、たまに過度にウェットでオセンチなのがあって辟易することがある。とくに学生運動崩れに多い「あの頃俺たちは確かに戦友だった」みたいな失笑モノ自己陶酔型文体。俺、ああいうのがダメで…。