牧原+しば+河崎@Plan-B

  1. 前半:牧原+しばデュオ
  2. 後半:牧原+しば+河崎トリオ


牧原氏は米国はフィラデルフィアを拠点に非常にユニークな演奏活動を続けているフリー・インプロヴィゼーションのドラマーだ。何がユニークかって、スネアドラム1個とシンバル1枚だけ!で表現を続けてるのだ。しかも使ってるのはいわゆる“初心者セット”の廉価な金属製スネアで、上面にドラムヘッド(皮)を張っただけ、底面にはヘッドもスナッピー(響き線)も付けていない。シンバルはシンバルスタンドを使わず、スネアの上に置いたり手で持ったりして使う。叩く物は、普通のドラムスティックの他にマレット、ブラシと、泡だて器(?)みたいな棒と、手と肘と足。“とにかくこの装備でやれることは全てやる”という演奏スタイル。ある意味究極のフリー・インプロ・ドラム。


この日は今年の来日ツアー*2最終日。ずっと行きたかったのだが仕事で都合がつかず、ようやく最終日に見に行けた。


ちなみに昨年のライブの模様は、web-criの野々村氏のレビューが詳しい。
http://www.web-cri.com/
(Brief Reportから "04/04/03 Toshi Makihara Project 2004: Improvisers' Network"へ)


たったこれだけの楽器から、牧原氏は驚くほど多様でダイナミックな音を出す。フリージャズのドラマーのドラムソロみたいに目まぐるしく全身を使ってひっきりなしにずーーーっと音を音を出している*3のだが、いかんせん装備が最小限なので、とにかく叩き方のバリエーションで変化を出すしかない。

  • 普通にスティックやマレットやブラシで叩く
  • ヘッド(打面)以外の、シェル(胴)やラグ(ヘッドを張る為のパーツ)を叩く
  • 片手でスネアをミュートしたり打面を押して音程を変えたりしながらスティックやマレットで叩く
  • 手ではなく足をスネアに乗っけてミュートしたりしながら叩く
  • マレットのゴム部でスネアを擦って、クイッカ*4みたいな音を出す
  • 手でボンゴやコンガのように叩く
  • ブラシでシンバルやスネアのあらゆるところを擦り、撫で、引っぱたく
  • スネアにブラシを乗せておき、ブラシのワイヤー部を指ではじいて「ベベベベベ」と鳴らす:そのせいでブラシのワイヤーはもうベロベロになってる
  • シンバルをスネアに乗せてスティックや(以下同)
  • 泡だて器みたいな棒で(以下同):なんか、「料理を失敗してヤケを起こしたグッチ裕三」みたいで可笑しい(笑)
  • シンバル自体をスティック代わりに使ってスネアを叩いたりスネアのヘッドをシンバルでガシガシと擦ったり
  • 指を広げた手をヘッドに置いて、指の間をスティックでダダダダダと連打していく*5
  • 自分の腕や手の平を叩く

etc,etc...


...ということを、パワフルに、また時には繊細に、ずーーーっと続けるわけですよ、休み無く。前半ではシンバルの縁で指を切って流血しつつ。叩きまくりタイプのドラマーなんだけど、それが嫌味やうるさいという方向にならずに、良い方向に発露している、という印象。見てるとどんどん引き込まれるし、まったく飽きない、素直に楽しい。演奏にみせるパントマイム調の百面相(?)も楽しい(狙ってやってるのではなく天然でいろんな表情がでてしまうようだ)。普段フリージャズを聴いてる人や「ズージャはやっぱ格闘技じゃないと」とか言う人にもアピールするのではないか。


対するしばてつ氏は、前半は腰掛けて鍵盤ハーモニカを膝に乗せ、ホース状の吹き口で息を吹き込みつつ演奏。こちらも牧原氏に対抗してか、ずっと弾きまくり系の演奏。フリージャズ/現代音楽風のアブストラクトで不協和なフレーズを次々と繰り出す。ロングトーンは余り出さずにピアノ風のパルス調の音使いが多い。感心したのがフレーズの息の長さとバリエーションと引き出しの豊富さ。数オクターブしかない鍵盤からずっと音を出し続けて牧原氏と渡り合ったのは凄い。音楽的な知識と技術の確かさを感じさせる。


後半は、牧原+しば+河崎トリオ。河崎氏を聴くのは2度目くらい(EXIAS-Jで見てるはずなのだが曖昧...失礼)今回初めて知ったのだが斎藤徹氏のお弟子さんというか斎藤氏に習った人なのね。斎藤氏のよくやるベースのプリペアを、ベースを横に寝かせてやる、という演奏。お琴の柱(じ:柱状のブリッジのことね)のように指板と弦の間にものを挟んだり、弾きながらツリーチャイムを鳴らしたり(口にくわえて振っていた)、弓でボディや弦のブリッジの外側を弾いたり。しば氏はギターをベキベキとスラッピングでノイジーに弾いたり、トイピアノを持って振り回して鳴らしたり、鍵盤ハーモニカのホースの蛇腹を引っかいてギチギチという音を出したり。牧原氏は前半と同じく、凄い勢いで叩き続ける。やってることもほぼ同じ。


...んー、ただ、後半は、なんというか、内省的で瞑想的(に見えた)なスタイルの河崎氏の演奏と牧原氏の演奏では、交感というか化学反応が発生するまでには至らなかったかな、というのが正直な感想。牧原氏も後半は叩きながらアイコンタクトを求めていたようだったが、うまくいかなかったみたい。しば氏もそれは同様で、色々やるけどちょっと成功には至らず、みたいな。


アンコールとして、短めにチャーリー・パーカーの曲(タイトル失念)をやって、終演。


非常にユニークで面白い演奏家なので、牧原氏の存在はもっと即興・フリージャズファンに浸透してもいいと思った。ということで、もしこれ読んで「おもろいかも」と思った人がいたら、牧原氏のサイトをチェックしてね。


Toshi Makihara
http://ourworld.compuserve.com/homepages/tosmos/

しばてつ氏のサイト:そーでもない
http://www4.plala.or.jp/soodemonai/

河崎氏の属するEXIAS-Jのサイト:real arts
http://www.realarts.org/

打ち上げ(単に控え室でビールゴチになっただけですが)では「トフのミュージック・エッセイ(トフのモノローグ改め)」のトフさんと、実は初めて本格的にお話できたのが、非常に嬉しかったっす。サイト、やめずに続けてくれるそうで、良かった良かった。インプロ系音楽のレビューサイトの良心!として、是非是非今後も続けてほしいなぁ。


トフのミュージック・エッセイ
http://homepage2.nifty.com/tofu-tokiwa/

*1:ピアニカってヤマハの商標なんだってね。

*2:牧原氏は米国に帰化してるので“来日”なのだ。

*3:牧原氏はガタイも凄いのだ。胸板ぶ厚いし、二の腕なんて俺の太腿くらいある(^_^;;

*4:サンバ等で使われる南米の摩擦太鼓、NHK教育の番組「できるかな」のゴンタ君の声でも使われてますね

*5:子供のころ、机で、鉛筆使ってやりましたよね?根性試しみたいな遊び。アレ、名称なんていうんだろう?