若尾裕+若尾久美@上尾Barber富士

インプロ界(?)では世界的に有名な床屋さん、Barber富士の松本氏が主催する即興演奏会、第62回(ホント凄いよな)は若尾夫妻from広島。

Barber富士
http://members.jcom.home.ne.jp/barberfuji/

mesostics(若尾夫妻のページ)
http://www.d6.dion.ne.jp/~kwakao/


例によって開演ギリギリに到着。3階の松本氏のオーディオルームに通される*1。うっ。動員めっちゃ少ないではないか(ちょっとここに書くのが憚られるくらい)。いいのかこれで。


前半

後半

ケージの曲は、晩年作曲の“ナンバー・ピース”の1曲。一連のタイトルは、アルファベットで記された数字が演奏者の数、上付き文字が何番目に作曲されたかを示す。つまり "Two^4"は、2人の奏者のための曲第4番、という意味。この曲は笙+ピアノおよびヴァイオリン+ピアノのヴァージョンがあり、笙のヴァージョンはケージが笙の宮田まゆみ氏に献呈したことで知られる。


“ナンバー・ピース”については、Modeレーベルの非常に充実した解説ページを参照(英語)
http://www.mode.com/catalog/088cage.html

ここでなんとか訳してちょ。
http://www.excite.co.jp/world/


若尾裕氏のほんの1メートルほど後ろ、ピアノの譜面が覗き込める位置で拝聴。2人ともデジタル時計をセットして演奏開始。ピアノの譜面は、シンプルな和音と短いフレーズがいくつか記されているのみ。それを時間の進行に応じて弾くように指示されているようだ。


ほぼペダルを踏みっぱなしにして残響を長くとった不協和音や短いフレーズが、間を多く取ってゆっくりとミニマルに繰り返される中、ヴァイオリンはかすれたような、鈴虫の鳴き声(鳴き声なのかあれは?)を思わせる音で、半音をさらに6分割した(!)微分音を奏でる。フレーズらしいフレーズがほとんど無く、弓が先端まで行ったらまた戻ってきて、手元まで戻ったら音程をごく僅かずらしてまた同じことを繰り返す、という感じ。弓の当て方はごく弱く、ほとんど弦に圧力を加えていないようだった。


霞か雲のようにゆったりと流れるピアノに、ほんの少しずつ変化していくヴァイオリン、という進行で約30分。なんつうか、甘さゼロ、糖分オフの“ノン・シュガーの環境音楽”という印象。聴いてる側からは寝息も少し(笑)。でも俺は不思議と眠くはならなかった。ピアノの若尾裕氏が譜面と時計とにらめっこしつつけっこう忙しく動いていたからかも。ああいう超スローテンポの曲は、体でリズムやテンポを覚えて弾けないからかえってコントロールするのが難しいのだな、と納得。



フリー・インプロヴィゼーションの演奏は打って変わって、若尾久美氏が眠気を吹き飛ばすような(笑)非常にアグレッシヴな演奏を披露。かなりノイジーでフリーキーな演奏を見せたのはうれしい驚き。対する裕氏は、あくまで久美さんをたてるようにサポートに回ったという印象? ゴンゴンと低音部を響かせるような演奏やインプロのピアノにある内部奏法のような特殊なことはせず*2は無く、ビル・エヴァンスドビュッシーを思わせる、はらはらと花びらが舞い散るような、またはさらさらと清流に水が流れるような演奏*3


現代音楽を経由した人のインプロって、木村まり氏の演奏(ブラボーだった!)でも感じたことだが、決して乱れきることがないのね。書道に例えると、一画をゆるがせにしないみたいな。はねや払いの最後まで神経が行き届いているような。若尾久美氏のヴァイオリンもそんな感じ。その証拠に、かなりノイジーで激しい演奏だったにもかかわらず、最後まで弓の毛が1本もほつれも切れもしてないの。ギュイッ!と弓を押し付けると、先端から松脂がシュバッ!と飛ぶんだよ。なんか日本刀の“抜けば玉散る氷の刃”という感じでカッコ良かったなぁ。


終演後は、1階の床屋さんの店舗で打ち上げ。知人のU君と揃ってお二人をケージその他に関して質問攻めにしてしまったのは申し訳なかったかな。若尾夫妻、そして松本さん、お疲れ様でした。


参考ディスク

Cage: Two,Five and Seven

Cage: Two,Five and Seven

しまった。限定2000枚だったからもう在庫切れのようだ。


Cage: The Works for Violin 3 - Two4

Cage: The Works for Violin 3 - Two4

HMVでは試聴も。こんな感じで30分続く。
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=742963

*1:Barber富士のコンサートは普通は1階の床屋さんの店舗で開かれる(だから開催日は理髪店の定休日である月曜日だけなのだ)が、ピアノを使うコンサートは3階の松本氏の私室が使われる。

*2:まぁ、アップライトピアノだし、なにしろ個人の私物だから、さすがに荒っぽいことはできんわな(笑)

*3:終演後、一緒した電車の中での話題ではエヴァンスとともにレニー・トリスターノの名前が出た