木村まりとSachiko-Mの素晴らしい競演

  1. 木村+Guitarbot+大谷安宏
  2. Sachiko M
  3. 木村+Sachiko M
  4. 木村+Polytopia
  5. Eric Singer

ヴァイオリンの木村まりは、数年前、ハンス・ライヒェルとのライヴ(行けなかったのが痛恨!)があった頃から、ずっと気になる存在だった。現代音楽畑の人で、なんでも「サブハーモニクス」という特殊奏法で調弦された音より低い音を出せる、とかいう説明がチラシに書かれていて。

その後、ミシェル・ドネダのライブで、ドネダやレ・カン・ニンとのライヴ盤 "Hyperion" を聴いて、いいな、ぜひ生で聴いてみたいな、と思ってた。

この日のSUPER DELUX。木村のヴァイオリンは、チラシやWebサイトの写真にあったZeta社製エレクトリック・ヴァイオリンではなく、通常のヴァイオリンにコンタクトマイクをつけてPowerBookに繋ぎ、エフェクト処理やGuitarbot、Polytopiaのコントロールをしていた模様。

Guitarbotは、レール状の金属フレームの中にギター弦が張られており、そのレール上をモーター駆動の "ピック" が、ちょうどインクジェットプリンタのインクカートリッジのようにジーコジーコと動いて音を奏でる、というもの。木村のヴァイオリンにリアルタイムで反応して、演奏のヴァリエーションを奏でる様は、なんともユーモラス。なんかちょっと明和電機のメカっぽかったのはご愛嬌だが(笑)。

Polytopiaのほうは、東欧のアーチスト(リンク先を見ると Liubomir Borissovという人らしい)の開発したヴァイオリンの演奏に反応するインタラクティヴ・ヴィデオ・システムらしかった。半透明のトルソー状の人体のCGが演奏にあわせて増殖したり回転したりするシンプルな映像だったが、これが美しい。

大谷安宏は環境音をサンプリングした音を加工して流していた...のかな?(ご、ごめんなさい、共演者のインパクトで印象が薄れてしまって...)

プレイヤーとしての木村の技量は、はっきり言って非常に高い。こんなに凄いとは思わなかった。久々にヴィルチュオーゾ的演奏に素直に感動した。

まず音色が魅力的だ。艶やかで粒立ちのはっきりしたサウンド。生音も美しいが、若干エコーをかけてPAを通した音もエフェクタを通した楽器特有のくぐもった感じになることなく、とても良かった。

演奏は、良い意味で高度にコントロールされている、という印象。かなりフリーキーな音やノイジーな音を出しても、その音が隅々までコントロールされている点。書道でいうと一文字一画、払いの先までもゆるがせにしないみたいな。かすれや滲みの具合まで意識が行き届いているような。だからこそヴァイオリンでコンピュータや"Guitarbot" を動かしていても、きちんと信号として変換されてマシンのほうがあれだけ見事にレスポンスするのだろう。

Sachiko Mは、サイン波と、スイッチングボックスの接触音、そしてコンタクトマイクを手に持って操作中の音を拾う、という演奏。ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガツッ、ブツブツッ、ガサ、カサコソ、ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー....。これだけの事なのに、なんであんだけ凄みのある表現になっているのか。相変わらず不思議だ。

そんな木村とSachiko Mの競演は、近年稀な名演奏になった。Sachiko Mのスイッチングノイズに木村が素早いピチカートで返し、サイン波には大きなグリッサンドを交えた自由闊達な演奏で応じる。フリー・インプロヴィゼーションの演奏には、お互いの演奏には無頓着にいくタイプと、ちゃんと耳を傾けて演奏するタイプ(いわゆるインタープレイや掛け合いとは違うけど)があるけど、Sachiko Mは究極の前者、木村は後者の凄くレヴェル高い例だと感じた。Sachiko Mと、ちゃんと "交感" できる演奏家なんて、そうそう居るもんじゃない。

この日の2人の演奏は、これから何年も記憶に残ることだろう。



あぁ、あと、Sonic Bananaというのは、終演後に余興みたいにテクノのカラオケをバックにデモ演奏されたのだけど...。んまぁ、リンク先に動画もあるから興味ある人は見てください、と(笑)。