メビウス×浦沢直樹+夏目房之介@明治大学・補遺


前回の日記(http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20090510/p1)の追記と補足。


ちなみに明大の告知ページは魚拓を取った。
http://s02.megalodon.jp/2009-0515-1527-12/www.meiji.ac.jp/koho/hus/html/dtl_0004084.html


だがその前に、ちょっとググって調べてみた結果を御紹介。

メビウス/『Heavy Metal』の最初の紹介記事

俺が知る限り、日本における『Heavy Metal』誌(『Metal Hurlant』英語版)の最初の報道は下記:


SFマガジン』1977年6月号「世界SF情報:ヘビー・メタル誌創刊」
http://kfactory.shonan-seashore.net/SFhtmls/SFM_197706.html
スターログ日本版」は1978年8月号が創刊号なので、上記記事はそれより前。


スターログ日本版」表紙
http://homepage2.nifty.com/out-site/starlog.html
うは(笑)テラナツカシス。


俺が知る限り、日本でメビウスとその作品『アルザック』が最初に紹介されたのは、これまたSFマガジンの、故・野田昌宏による連載コラムのはず。


イラストレーター吉井 宏氏のブログより。
グラフィック薄氷大魔王[139]自称SFファン時代/吉井 宏
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20080611140100.html
スターログ誌とSFマガジン
http://graphic.pastel.co.jp/yoshii/archives/2004/09/sf.html

HEAVY METAL誌(フランスのメタル・ユルラン誌の米国版)という大人向けSFコミック誌もその連載で知った。メビウスの代表作「アルザック」の絵がいくつか小さく載っていて、すごい衝撃を受けた。世界にはこんなものがあるのか!って。


その記事とはコレです↓
SFマガジン』1979年2月号 野田昌宏「私をSFに狂わせた画描きたち:ギンギンの「ヘビーメタル」(その1)」
http://kfactory.shonan-seashore.net/SFhtmls/SFM_197902.html
SFマガジン』1979年3月号 野田昌宏「私をSFに狂わせた画描きたち:ギンギンの「ヘビーメタル」(その2)」
http://kfactory.shonan-seashore.net/SFhtmls/SFM_197903.html
(ちなみに上記ページのトップページはこちら。テラナツカシス(笑))
http://www.k2.dion.ne.jp/%7ekfactory/
http://kfactory.shonan-seashore.net/SFhtmls/SFMindex.html


たしかメビウスエンキ・ビラルが紹介されてたんだったかな。この記事での図版はモノクロで、シンポ会場で浦沢センセイが持参した『スターログ』の記事よりもはるかに小さく、切手くらいの大きさしかなかったと記憶する。それでも俺も凄いインパクトを受けて、実物探しに銀座の「イエナ書店」の洋書部まで出かけたくらい。その時は見つけられなかったのだが。


もしかすると、美術系やアメコミなど海外コミック系メディアで上記以前に報道された事実があるかも知れないが俺は寡聞にして知らない。もし御存知のかたがいらしたら教えて下さい。

■空振りしちゃったトピック

だが、全てが大成功、万々歳、というわけではない。以下は、質疑応答が噛み合わなくてトンチンカンなやりとりになったり尻切れトンボになったりしてしまった部分。

◆藤本氏の質問

藤本氏の「いよいよ今日のテーマである描線についてうかがいたいと思います」という発言で始まった一連の質問:

  • 『ブルーベリー中尉』→『アルザック』で線が全く変わった
  • SFを描くに当たって必要だった“描線の変化”模索の経緯
  • ジャン・ジローの線」と「メビウスの線」は、本人にとってどう違うのか

これが、質問の意図やニュアンスがメビウス氏にうまく伝わらなかった可能性がある。どうも「タッチを変えることに抵抗はなかったのか」とか「マーケット側の要望に合わせてポリシーを曲げたのでは?」みたいな、ネガティヴなニュアンスの質問として解釈されてしまったようなふしがある。

これを受けてのメビウス氏の回答は、「ジャンルの違いと言うよりもアート的な表現とBD的な表現の2極を統合してみたかった」という発言から、いつのまにかなんかアイデンティティ論みたいな話題が始まり、「私は常に、これは自分の絵なのかと自問自答している」とか「自分にいかに誠実であるかが大切」とかいう話になり、ついには会場の若い漫画家志望・アート志望の観客へのメッセージとして「若者よ、変化と冒険を恐れるな、チャレンジを楽しみなさい」と呼びかける、という精神講話みたいなかたちで終わってしまった。

これを受けての藤本氏のコメント:

「ありがとうございました。メビウスさんの創作の秘密がかなり良くわかったような気がいたします」

いやいやいや、よく分からないし。

藤本氏は、どうもここら辺からかなり時間が押してきて焦っている様子が出てきて、慌てて第2部の浦沢・夏目コンビのトークにバトンタッチしてしまった。「その辺りはこのあとも質問として出てくることになると思います」とか予告しておいて、結局最後までその話題に戻ってこないし。「いよいよ」って言ってたじゃないすか。「今日のテーマ」って言ってたじゃないすか。俺まさにソコが聴きたかったのに。

藤本氏が聞いてみたかったと発言していた、

  • 非常に緻密な線にも関わらずユーモアと「軽み」がある
  • 繰り返される「飛翔と落下」「浮遊感」のイメージ
  • その意味とは?

俺は、それこそがまさに今回のシンポジウムの核心だと思うんですが、そこに戻っていかなかったのはいかがなものか?という気がする。


◆夏目氏の見解:「絵の思想」は言語化できない、か?

夏目房之介氏のブログに当日の発言内容が記録されているが:
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2009/05/post-5d2d.html
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2009/05/post-9db4.html

このように語ってくると、直接目に見えるような影響を拾って、メビウス氏の仕事を語ることの困難さや限界に気づかざるをえません。

実際、日本におけるメビウス氏の影響を語るとき、画風や描線だけに限ってしまうと、その大きさと深さを刈り込んでしまいかねないのです。

そうではなく、メビウス作品の持っている意識変容のイメージ、線が線を越えてゆく開放感、そういった豊かな、そして普遍的な「絵の思想」そのものが、簡単には見えない形で、広く、深く影響していったというべきではないでしょうか。

いやいやいや、そこは言語化していただかないと。

だって、夏目さんの過去のお仕事は、かつて漫画評論といえば社会批評や時事評論のついでに刺身のツマのように語られるかサヨクイデオロギーブルジョアプロレタリアートとか都市対農村とか)のプロパガンダのダシに使われるかくらいしかなかったのを、まさに、マンガの「直接目に見えるような」「画風や描線だけに限った」表層の部分を集中して徹底的に語ることによって、マンガ批評の新しい地平を切り開いてきたのではなかったのですか。それを言っちゃあオシマイでしょう。そりゃ確かに「困難や限界に気付かざるをえない」のかもしれませんが、そこは是非とも語っていただきたかった。


◆結局メビウスにとってコマ割ってなんなの?シンポ前日のブログ記事の内容:
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2009/05/post-2a5b.html

小池さんとは大友さんとは違う受容の方向を持つ小池さんの、コマについての考えを伺った。大友さんは、基本的に客観的な遠い視線の世界観があり、スクェアなコマ構成の中でメビウスを受容しているが、小池さんは米西海岸的なドラッグ・カルチャー系の受容で、そこにコマの自在さの受容もあるんだと思った。小池さんは、メビウス以前に真崎守が好きだったという話も腑に落ちた。
小池さんの言葉で、これは美しいな、明日使おうかなと思ったものがある。
「僕はコマって音楽だと思ってるんです。時間だから・・・・」
おお、なるほど、小池さんのコマにはリズムだけじゃなくハーモニーもあるし、と思ったのだった。

これを踏まえて夏目氏は「メビウスさんにとってコマ割、フレーミングとはどのような意味を持つのか?」という質問をぶつけたのだが、メビウス氏が「そうですねぇ…例えばこんな感じ…」とか言ってスケッチブックに絵を描き始めたとたん、パネリスト全員+観客全員がモーツァルトがまったく書き損じせずに楽譜を書き始めるところを陶然と見つめるアントニオ・サリエリみたいな状態になってしまい、浦沢氏と夏目氏が「いやぁ…幸せですね」「至福のときだね(笑)」とか言ってるうちにメビウス氏が書きあがって一同拍手喝さい、という展開のうちに、なんとなく曖昧でグダグダな雰囲気のまま明確な結論をみずに終わってしまった。

いやいやいや、結局メビウスにとってのコマ割って何だっていう結論なのよ?


藤本さんも夏目さんも優れた仕事をしていると思うし著書も持ってるしはっきり言ってファンなのだが、以上の点はとにかく残念。


ネットで検索してみると概ね好評だったこのシンポだが、けっこう、浦沢センセイのアツい「メビウス愛」の熱気にだいぶ助けられたんじゃない?と言わざるを得ない。


あと、OHPプロジェクターの操作と、ビデオカメラの操作をしていたボランティアの学生さん、画面を落ち着き無くせわしなく動かしすぎ。背後の大スクリーンに、OHPの操作方法がよく分からなくてピンボケ画像がボワボワと動いたり、ビデオ画像がジェットコースターに乗った動画みたいにグワングワンと回転したりして、見ていてはっきり言って酔いました。恐らく学生さんか院生さんだと思うのだが、社会に出たら、プレゼンテーションで手際が悪いのはそれだけで減点対象だよ。そこいら辺ちょっと考えたほうがいい。


以上、あっちこっちで絶賛の嵐なので、あえて問題点も挙げて、当日の様子をできるだけ正確に記録しておきたいと思った次第。俺自身は非常に楽しんだし、関係者・出席者のどなたにもネガティブな感想を抱いてはいない。どうかその旨お汲み取りいただき、了とされたい。

参考リンク集

メビウス・ラビリンス 
http://moebius.exblog.jp/i4

更新終了しているが、非常に素晴らしいメビウス/BD関連ブログ。ほんと凄い。必読。このブログ主さんは今回のイベント行かれたのかな。

関係者ブログ:
たけくまメモ
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/in-b0ad.html
メビウス滞在記 - 京都精華大学 学長室ブログ
http://po.kyoto-seika.ac.jp/?p=438

一般の観覧者のかた達のブログ:
線を司ること、線に翻弄されること―シンポジウム「メビウス ∞ 描線がつなぐヨーロッパと日本」から考える - id:midnighters
http://d.hatena.ne.jp/midnighters/20090510/1241954496
Moebius in Japan - イラストレータhama氏のブログ
http://hamamemo.exblog.jp/11034947/
http://hama-house.com/
すっげー上手い!(なんて、プロに向かって失礼ですね)ホントこんな感じだった。
メビウスシンポジウム in 明治大学 - イラストレーター スカポン太氏のブログ
http://ppgcom.blog12.fc2.com/blog-entry-2762.html
http://ppgcom.gooside.com/index.html
そうそうそう。こんな感じ。

mixi内:
メビウス展に行かれた方!
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=42505487&comm_id=39027&page=all
メビウス来日!
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=41736938&comm_id=424387&page=all

YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=tO1pWFcNbJg
http://www.youtube.com/watch?v=nPikIuuCBbI&feature=related