YAMAHAという企業の“底力”
ITmedia Newsから:
VOCALOIDをネット経由で操作できる ヤマハが「NetVOCALOID」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/07/news083.html
VOCALOIDの可能性、DTMの“外”にも――ヤマハに聞く「NetVOCALOID」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/20/news012.html
VOCALOID“神調教”技術「ぼかりす」実用化へ、ヤマハと産総研が連携
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/27/news039.html
3分で“神調教”に? Netぼかりすα版で曲を作ってみた
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/28/news088.html
いまやボーカロイドの技術でネット内外でブイブイいわせてるヤマハ。いやまったくたいしたもんだ(個人的には“調教”って用語にはどうも違和感があるが…)。
だが。
光あるところに影がある。
その成功の陰には、幾多の「成功しなかった」製品があることは意外と知られていない。
というわけで「Netぼかりす」α版記念、ヤマハで“いろいろと残念な結果”になった製品を振り返ってみようという企画。
まずは、こんなのから。
G10 (MIDIギター)
http://www.yamaha.co.jp/design/products/1980/g10/index.html
http://yamaha.jp/product/music-production/midi-controllers/g10/
「G10(ジーテン)」は、デジタル弦楽器が抱える発音の遅れを超音波センサー搭載により解消しているGuitar MIDI Controller(ギター ミディ コントローラー)だ。ヤマハのFM音源シンセサイザー「V2」や、デジタルリズムプログラマー「RX7」などのMIDI音源もプレイ可能であり、既に購入済みの機材を有効に活用できる。
デジタル楽器にとって、音を響鳴させるための胴体は不要だが、ギターを使い続けたプレーヤーにとって演奏時にホールドするための本体ボリュームは不可欠だ。そこで、新しさの提示も含めてG10に採用されたのが三次元の形を持つデザイン。特にホールディングには気を配り、最終的にはG10本体の片側に厚みを持たせる非対称な形状となった。
ヤマハ・Gシリーズ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%BBG%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
1988年発売。フレットと弦、アームのみという近未来的な形状をしている。超音波センサーによって音程を割り出して、通常のギターとほぼ同じレスポンスを得られるようにしている。ギターの形をしているが、専用コンバータG10Cでないと信号変換不可能。弦がスチール第3弦×6と全ての弦が同じ太さとなっている。
動画
http://www.youtube.com/watch?v=v3M9sMmhsm0
むかーし、Player誌の裏表紙とかに広告打ってたくらいだから、ヤマハとしてもそれなりに気合を入れて発表したはずである。
確かに「工業デザイン」という観点から見れば、ある種の洗練さを備えていると言える。
だがギターという「楽器」として見ると、「もうどーすんのよコレ」という風にしか見えない。当時、吾妻光良氏が雑誌の連載で「弦に超音波が流れてるなんて!弾いてて指がちょん切れたらどうしよう!」と恐れていたのを覚えている。吾妻さんそれギャオスっすから。
光るギター EZ-EG
http://www.yamaha.co.jp/design/pro_1990_08.html
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4GGLD_jaJP324JP324&q=%e5%85%89%e3%82%8b%e3%82%ae%e3%82%bf%e3%83%bc+EZ-EG
http://ascii24.com/news/i/hard/article/2002/04/17/635244-000.html
google:光るギター EZ-EG
コンセプトは“誰でも簡単に演奏気分を楽しめるギター”。通常の演奏のほか、曲に合わせて右手で弦を弾くだけでコード演奏が行なえるモードや、スイッチが光って押さえる個所を教えてくれるレッスンモードも利用できる。音色はフォークギター、クラシックギター、エレキギター、三味線など20種類を搭載。楽曲もフォークソングを中心にした36曲を収録する。本体にスピーカーを内蔵し、電池駆動も行なえる。また、“『EZ-EG』ホームページ”から楽曲データをパソコンにダウンロードすれば、本体に転送して演奏することもできる。
いやそれ…「楽しめる」のか…?
これを「弾く」行為って、楽器を弾く快楽・喜びとは全く異質なものだと思うのだが。なんか「太鼓の達人」等の“音ゲー”への違和感と相通じるものがあるような気がする。
せっかくだから読者サービス(男性限定):光るギターのボディにオッパイを乗っけてるデビュー当時の滝沢乃南(当時は芸名違うのね)
http://ascii24.com/news/specials/newpupil/2002/05/27/636042-000.html
http://ascii24.com/news/specials/newpupil/2002/05/27/636042-001.html?
http://ascii24.com/news/specials/newpupil/2002/05/27/636042-002.html?
miburi
http://www.yamaha.co.jp/design/products/1990/miburi/
「Miburi(ミブリ)」は、「音を身体の動きによりコントロールし、音楽やリズムを奏でる」という、他に類を見ない電子楽器だ。肩、肘、手首などの各部分にセンサーを装着した専用ウエア、両手の指で演奏するためのグリップセンサー、出力用音源スピーカーユニットのセットになっている。
ウエアを着用することで身体の動きがセンサーに捉えられ、音階へと置き換えられる仕組みで、身体の動きがそのまま音楽になる。Miburiはヤマハが「VA(バーチャル・アコースティック)音源」の開発に成功したのを期に発案、商品化が進められた。
大久保宙氏による解説ページ
http://www.miburi.org/miburi222.htm
動画
http://www.youtube.com/watch?v=4y9V5ORFnzs
Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/Miburi
足立智美氏の“赤外線シャツ”やMITのトッド・マコーヴァー、オランダSTEIMの故ミッシェル・ヴァイスヴィッツ(亡くなってたの知らなかったよ…合掌)など、この手のマン・マシン・インタフェースはアート系および大学など研究機関レベルではよく見かけるが、企業ベースで製品として開発してしまうという無茶ラディカルさが素晴らしい。平沢進とか坂本龍一も試していた(モニターかエンドース?)と記憶する。
UD-STOMP(エフェクター)
かの超絶技巧ギタリスト、アラン・ホールズワース監修のプリセットが入っているディレイ系マルチ・エフェクター。
(英文:日本語ページは404)
http://www.yamaha.com/yamahavgn/CDA/ContentDetail/ModelSeriesDetail.html?CNTID=2538&CTID=225100
http://delaymania.client.jp/productsreport/delayudstomp.html
アラン・ホールズワースインタビュー
http://topic.auctions.yahoo.co.jp/music/guitarlabo/holdsworth/alan01/
YAMAHAのリックがとっても小さな「UDストンプ」というボックスを作ったんだけど、これには8個プロセッサーが付いていて、実に僕御用達の機能を備えていたんだよ。僕はコレひとつで全部用が足りたんだけど、僕もかなり特殊な部類に入るようで(笑)、これが僕以外のミュージシャンにはまったくアピールしないものだったんだよ。結局今それは存在していない。そう考えてみると、YAMAHAが作ったもので僕が気に入ったものはすべて廃番になってしまうんだよ。
(;´д`)巨匠…やるせねぇ…。
ヴィオリラ
http://www.yamaha.co.jp/product/violyre/index.html
新しい発想の弦楽器。ヤマハは『ヴィオリラ』と名付けました。
弓で奏でるバイオリンやチェロに似た魅力的な音色。
ピックや指で奏でるマンドリンやギターに似た優しい音色。
多彩な表現が新しい感動を生みだします。
これは凄い。弓奏する大正琴?
エレクトリック大正琴の竹田賢一さんや、灰野敬二さんのハーディガーディに続く新兵器として使ってもらうのはどうだろうか。
エレキギターだって負けてはいない。
今の若者は、ヤマハのエレキギターというと「おじいちゃんがテケテケやる」とか「部長のオヤジバンドのライブで聞かされる」(若者よそれは“フュージョン”というジャンルだ。人事考課に響くから覚えとけ)音楽をやるための楽器だと思っているかも知れないが、現在の最新モデルはコレである:
RGX A2 シリーズhttp://www.yamaha.co.jp/product/guitar/eg/rgxa2/index.html
なんかCGアニメ『ウォーリー』のクリオネ型ロボットを思わせるカラーとフォルム。ぱっと見てロゴマークを見なければとてもヤマハのエレキとは思えない。感心するのは、パーツ類が、既存のパーツメーカーのOEM品ではなく全部オリジナルの新規型起こしなのな。どれだけ開発費かかってるんだ。
残念なことになってる製品だけではない。成功例もある:
テノリオン
http://www.yamaha.co.jp/design/tenori-on/index.html
http://www.yamaha.co.jp/design/tenori-on/swf/index.html
岩井 俊雄 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E4%BA%95%E4%BF%8A%E9%9B%84
TENORI-ONはメディアアーティスト岩井俊雄とヤマハとのコラボレーションによって制作された21世紀の音楽インターフェース。
16×16個のLEDボタンを使って、音楽の知識がなくても視覚的・直感的に作曲/演奏することが可能です。
音楽家へのインタビュー動画集
http://www.yamaha.co.jp/tenori-on/interview/index.html
みんな画面見て一心不乱になってるのが可笑しい。
さて。
このようにヤマハの“成功しなかった”新製品をいろいろ見てきたわけだが。
以上紹介したように、その製品群の中には、明らかに「アイター(ノ∀`)」というものも少なくない。
しかしそれでも、これだけ懲りずに新製品を開発し続ける、その企業としての体力・底力というのは、凄いものがあると思わざるをえない。
だってさぁ、ヤマハの研究者なんつったら相当優秀な人材ばかりだろうに、それを2年3年ひとつの新製品開発に張り付かせるわけじゃない?どれだけ開発コストかけてんだって。エレキのパーツにしたって、金型ひとつ起こすのに百万・千万単位の予算かかるはずなんだよ。
【参考書籍】
Mark Vail: Vintage Synthesizers
http://www.amazon.co.jp/Vintage-Synthesizers-Mark-Vail/dp/0879306033
- 作者: Mark Vail
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これは書名どおり、モーグ、ブックラ、EMS、アープ、オバーハイムetcといった70年代を代表するシンセサイザーの紹介と当事者達へのインタビューを取りまとめたものだが、実はその内容の半分は「シリコンバレー革命以前の知られざるアメリカベンチャー企業興亡史」である。
ここで取り上げられる“伝説的技術者”は誰もが、良くも悪くも“技術バカ”であって経営能力ゼロ。まったく市場の見込みが無いギターシンセ「アヴァター」に入れ込んだあげく経営陣の不和と対立のなか傾いていくアープ社、訴訟と悪徳弁護士にケツの毛まで抜かれていくトム・オバーハイム、詐欺師まがいの“再建屋”のせいで大量のミニモーグの不良在庫を抱えてしまい仕方なくギブソンの下請けまでする羽目になるボブ・モーグ…。もう凄い。死屍累々である。
そんな彼等はこぞって「やっぱり日本企業にはかなわない」と嘆息する。
「彼らはとても厳格だ。製品管理とコストの有効管理が彼らの全てなんだ。アメリカ人はよりクリエイティヴだと言えるかも知れないが、きちんとした製品を作ることや顧客サービスには弱い。日本人にはエゴがなく、顧客が何を欲しているのかをきちんと聞く。分かってるんだ、僕がお客さんと話をするときは、彼らの話に適当にフィルターをかけて、自分が聞きたい話だけに耳を傾けていたんだ。つまり、自分で墓穴を掘っていたわけだ」ロジャー・リン(リン・ドラム)
「長期的マーケティングが大きな要因だと思う。彼らの一貫した系列会社システムもその要因の一つではある。しかし、日本人は本当に長い目で一つの製品を見ることができるんだ。そして彼らにはそれを支えるための資金もある」トム・オバーハイム
「日本はより長期的なゴールを見据えて資金計画を進めている。だからアメリカの会社だったらつぶれるような状況になっても、好機が来るまで持ちこたえられるんだ。でも、それだけじゃない。(中略)DX7を考えてみたまえ。これは突然登場してきたわけではない。Yamahaはテクノロジーを自分のものにするために何年も力を注いできたんだ。最初それは2万ドルもするノンプログラマブルの楽器で、次が9000ドル、そして、2000ドル以下のプログラマブルDX7の登場だ」デイヴ・スミス(シーケンシャル・サーキット:プロフェット5の開発者)
ヤマハという企業の底力。それは“たゆまぬ技術開発”を継続するその意思とそれを実現する技術力にあるのだろう。
そこから伺えるのは、「とにかくこういうことを続けなければダメだ」という信念にも似た社の方針である。単に新製品を出せばいいという姿勢ではない。製品を開発するには、新たな「市場」そのものを創造しなければならない、という気概がある。そこに俺は感動する。
つまんないMADでテラワロスとか言ってるそこのニコ厨!これからはミクを聴いたら泣け!泣くんだ!
あのホンダすらF1から撤退するこの100年に一度の不況の中、ヤマハには是非とも踏ん張って今後ともヘンなラディカルな製品開発を続けていただきたいと切に願うものであります。
BGMは当然、これな。
http://www.youtube.com/watch?v=fx5-9_yBJhE&feature=related