SalmoRise vol.2@門天ホール
というわけで、1/13、山内桂「SalmoRise」の第2弾をゲストにチェロの入間川正美氏をお迎えして開催した。
まず、ご予約いただきました皆様、まことにありがとうございました。なんとドタキャンがゼロ、さらに遅刻者もほとんどなくほぼ定刻開演という、このてのライヴでは普通ならありえない状況。非常にありがたく、心から御礼申し上げます。
さて、演奏だが。結論から言おう。俺がこの数年で聴いたいわゆるフリー・インプロヴィゼーションの演奏の中でもトップレベル、素晴らしくクオリティの高い演奏になった。いやこれは企画に関わったから自画自賛するのではなく、偽りない実感だから。
以下レビュー。前半は各々のソロ演奏、後半デュオ、という2部構成。
前半:
- 山内ソロ
- 「ホウリ」
- 「!」(←曲名)
- インプロヴィゼーション
- 「Hi」
山内氏は自作曲と即興ソロ。山内氏の表現は大まかに
- 息音中心の長尺の即興演奏
- 大らかでゆったりした主旋律を持つソロ曲
- 音波を使って鼓膜を摩擦するような、“耳に痛い”超高音ソロ
の3種類に分類されるが、「ホウリ」がメロディ系、「!」と「Hi」が超音波系。
「ホウリ」はロングトーン中心のシンプルでナイーブなメロディが光る。曲の終わり近く、メロディから徐々に息音が増えていってメロディラインがかすれるようにフェードアウトして、ちょうど映画でカメラがズームアウトして遠ざかるような効果を醸し出す。
「!」は、韓国のチャルメラや篳篥のような管楽器「ホジョク(胡笛)」を髣髴とさせる、強烈なヴィブラートと超高音域を特徴とする曲。ターンテーブルのスクラッチのように音波で鼓膜をワシャワシャと擦られるような感じがする。その「鼓膜のワシャワシャ」を含めた体験が、「曲」の一部を成しているのだと思う。つまりこれら一連の超音波系楽曲は、ライヴのその場でしか体験できず、CD等の音源では本当には再現できないものだ。
というような展開。最後に長く息を吐いて、聴こえなくなるまでデクレッシェンドして、終わり。
入間川氏はソロ・インプロヴィゼーション1本で通した。大体の展開は下記の通り:
- アルコで途切れ途切れにポツポツと短い音を置いていく
- 徐々に音数増えて、不協和音のアルペジオに移行
- 低音の開放弦を弓の端や指で鳴らしつつ、高音をアルコで奏でる
- やおら激しい弓使いで大音量痙攣するようなトリル
- 再び間の多い断片的な音に
- 長音を使った大きなフレーズ→ポツポツと間の多い断片的な音、という展開を何度か往復
- かすれたような音色のフラジオ→デクレッシェンド→沈黙、そして終演。
入間川氏の演奏は、フレーズになる直前というか、何か「流れ」のような展開になりそうになると、そこで敢えて流れを断ち切るような演奏をするのが特徴だ。そこが、人を不安にさせるような不穏な雰囲気を湛えた演奏になる。入間川氏の演奏を聴いて俺がよく思い出すのは:
- ヒンデミットの弦楽曲
- パウル・ギーガー(ECM New Series からアルバムをリリースしているスイスのヴァイオリン奏者)
- 滲有無のときの灰野敬二がチェロ弾いたらこんな感じかも
etc... である。
後半:
- 山内(アルト)+入間川デュオ
- インプロヴィゼーション
- 「Salmo」
以下、箇条書きで簡潔に。
- 山内:息+実音混ぜた音
- 入間川:アルコでフラジオ 小刻みな音→長く伸ばすフレーズに
- 山内:息+フラジオ
- 入間川:小刻みに復弦を弾く→徐々に低音・高音の跳躍の多い演奏に
- 入間川:弓を毛の部分ごと握り締めて強く弦に押し付け、ノイジーで強烈な音を出す
- 入間川:指板先端部ギリギリの部分で高音を弾く
- 入間川:左手の指で弓をブリッジするようにしてまたぎ、弓の外側と内側を聞かせる
- 山内: サックスでビブラートする電子音のような音を出す
- 山内:息で蒸気機関車のような「シュッシュッ」という連続音
- 入間川:高音域の細かいトリル、神経症的な雰囲気
- 山内: ボソボソと小声でつぶやくような息音
- 入間川:静かな高域のアルコのロングトーン
- 入間川:低音弦をハンマリングで出しつつ高音弦アルコで弾く
- 入間川:低音弦のピチカートに移行
- 山内: 掠れて軋むようなあえかな音;喘息患者のゼイゼイいう息のような
- 山内: 短いペースのタンギング→キー音をカタカタ
- 入間川:左手で押弦しながら、その指の上側、つまりナットと押弦した間をピッキングする
- ここで両者(意識していたかどうかは分からないが)インタープレイのような展開に。
- 入間川:弓のチップ(先端部)で弦をつつくようにして弾く
- 山内: キー音と息音を交互に出す
- 入間川:弓で弦を(交差させるのではなく)弦に平行に擦ったり円を描くようにして擦ったりしてホワイトノイズのような音を出す
- 入間川:再び指板の先端を押さえて超高音のアルコ
- 山内: 淡々と続く息音
- 山内:何かの器械かモールス信号のようなキー音
- 山内: 深呼吸のように深く長い息音
- 入間川:アルコによる掠れたフラジオのロングトーン
- 二人で消え入るようにデクレッシェンド 終演
このデュオは、緊張感が最後まで途切れない、素晴らしい演奏になった。俺は客席最後尾の受付席で聞いていたのだが、徐々に、「いま途轍もないことが起きている」という緊張感が客席にも漲ってくるのが分かる。デュオの中盤にもなると、客席が声なき声でどよめくのがお客さんの背中を見ていて分かるの。「ちょ……なんだこれ…」「これはただ事ではない…」という感じで。いやホントだって。
最後の演奏は山内氏の曲「サルモ」。
山内氏のテーマ曲ともいうべきこの曲、他の奏者と共演するのは、実はこれが初めて。シンプルなトリルというか上下動するシーケンスのパターンを延々繰り返して、その中のわずかな差異やバリエーションを聴かせる曲。
入間川氏は、山内氏のシーケンスパターンと同様に上下するパターンを繰り返すが、両者の出す音は、決して交わったり交感することのない、いわば「ねじれの位置」にあるようなフレーズを中音域アルコで奏で続けた。
うーん。ただ、しかし…・
この競演が、即興デュオでの達成とは異なり、必ずしも成功したとは言いがたい。ただ2つの演奏が並置されていただけのように感じてしまった。
これは事前にリハや打ち合わせをするかもっと何らかの準備をするべきだったように感じた。その責任の一端は俺にある。このようなコラボレーションを今後も続けるなら、これは今後の課題、検討材料だろう。
とはいえ、この日の演奏は本当にレベルの高いものとなった。俺が今までに聞いた両氏の演奏の中でも指折りの素晴らしさだっと思う。企画に関わったインサイダーだからといって内容についてちょっと控えめになったりする必要はないよなぁ。良かったなら素直に良かったと言ってみたい。そしてこの日はそう語るにふさわしい演奏だったと思う。
終了後、山内氏、入間川氏と、設営のお手伝いをしてくれたS君、そして山内氏が九州で共演した若手のミュージシャン達を交えて、門仲の名物店「だるま」で打ち上げ(打ち上げのためにわざわざ開けておいてくれたのだ。ありがたくも申し訳ない)。調子に乗って少々飲み過ぎた。あの店サワーの焼酎が飛び切り濃いんだよ(笑)。居酒屋チェーンの店の倍の濃さがある。
お運びいただいた皆様、山内さん、入間川さん、本当にありがとうございました。ライヴの成功はすべて皆さんのおかげです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!