ミッシェル・ドネダ2007年ツアーから
イヌイット語には「雪」や「白」に関する語彙が数十種類あるという。その伝でいうと、ミッシェル・ドネダの「息音の演奏」のバリエーションは108種類ぐらいありそうだ。
「ワシの気息は108式まであるぞ!*1」
(Barber富士 松本さん、勝手に写真使ってすみません...)
だいぶ経ってしまったが、ミッシェル・ドネダの先月の来日ツアーのレビューを。
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筝については下記が詳しい:
箏 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%8F
十七絃 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%B5%83
筝 - 日本音楽集団
http://www.promusica.or.jp/07instruments/04koto.html
演奏はデュオ2セットと、休憩挟んで齋藤徹氏をゲストに迎えてのカルテット。
- ドネダ・沢井
- ドネダ・今井
- ドネダ・沢井・今井・齋藤
ドネダ・沢井
沢井氏の筝は、右4分の3辺りに箏柱(ことじ)を配してあって、龍頭(奏者から見て左)側は低めに調律して、いわゆるお筝らしい音に、龍尾(奏者から見て右)側は高めに調律してハープのような音色にしてあるようだった*2。柱(じ)の左右で出会う東洋と西洋。まさにドネダの共演者にふさわしい。
- まず、ドネダ氏はソプラノでくすんだ音色のロングトーンから開始。
- 続いて尺八のような切り裂く息音
- 沢井氏は主に高めのハープのような音を奏でつつ、時折りスピードスケート選手のように横っ飛びに動いて低音部を弾く。黒づくめの細く小柄な身体が筝のうえに屈み込んでいる様子は黒い蜘蛛を思わせる。
- しばらく、インタープレイぽい相互反応する演奏が続く。筝の音色が美しい。
- ドネダ、小鳥の囀りのような音から、超音波のような高音のフラジオに移行。左右に身体を揺らして静かにステップ踏みつつ吹く。
- 続いて名づけて“ドップラー奏法”(勝手な命名)。身体を、足ごと左右にブンッと振りながら吹いて、ドップラー効果とともに聴かせる。
- その後、気息中心の演奏に。内省的な静かな息音かと思えば、空間を切り裂くような鋭い息を聴かせたりする。
- 沢井氏は、筝の龍角(ブリッジ)と竜眼(テイルピース)の間を弾いたり、胴を叩く、絃をスクラッチのように擦るなど自在な演奏
- ドネダ、重音奏法、小刻みなタンギングから、馬のイナナキのような音へ
- 沢井、コードストロークのように弦全体をかき鳴らす
- ドネダ、長い息音+フラジオ
- 双方、徐々にポツポツと音の数が少なく、間隔が長くなっていき....
- 最後に沢井氏が弦を1本、バチン!とスラップして終わり。
この演奏は、素晴らしかった!完全な即興演奏なのに、もうまるで作曲された現代邦楽曲みたいで...。凄くレヴェル高かったと思う。録音していたなら、絶対リリースすべき。即興音楽史上に残る名演奏になるだろう。
ドネダ・今井
今井氏は、エレキギター(ES175+ビグスビーのトレモロアーム)、ディレイ系エフェクター数個を使用。考えてみたら、俺、ドネダのサックスとエレクトリックな楽器の共演を聴くのは初めてだ(CDでは聴いてるけど)。
- 今井氏は弦を横切るように鉄棒を挟んでプリペア。ポツポツした雨音のような音
- ドネダはソプラニーノ、つばきをジュルジュルさせるような音(汚い形容ですんません)、チューチューブツブツいうような音
- 続いて、超音波や電子音、モーターのような音を次々と聴かせる。サックスから出てくる音とは思えない。
- 今井氏、フラメンコのラスゲアード(かき鳴らし奏法)のような力強いストローク
- ドネダ、ソプラノに持ち替えてロングトーン
- 今井氏、両手でヴァイオリンの弓を持ってギターをアルコで弾く。
- 双方、フリーキーで激しい演奏の応酬
- ドネダ、ドップラー奏法
- 今井、アルコで、オケのストリングスによるトーン・クラスターのようなぶ厚い音
- ドネダ、フラジオのロングトーン
- 続いて名づけて“円月奏法”(勝手な命名)。身体を、円形を描いてグルンッと回したり、刀で袈裟懸けに斬るようにして吹いて、ドップラー効果を聴かせる。あたかも“音で出来たライト・セイバー(ビーム・サーベル)”。真正面に居ると音で斬られそう。
- 今井、ヴォリュームペダルでアタックを消した奏法。リズミカルにペダルを踏みながら次々と繰り出す、ヴァイオリンやテープの逆回転のような音が美しい。さらにトレモロアームをかけてグニャグニャした音に。
- ドネダ、ソプラニーノに持ち替えて、エヴァン・パーカーを思わせる高速トリル
- 続いて、マウスピース外して「ピスピス」という犬が鼻を鳴らすような音。
- 今井、ギターを両手タッピングでパラパラ音を出す(ディレイで音の数を増やしていたか?)
- ドネダ、再びソプラノに持ち替えて激しく吹く
- 今井、木の棒で弦を叩く、続いて激しく弦をかきむしる
- ギターの弦を「ツルツル」とグリサンドさせて電子音のように(これもディレイで音の数を増やしたりピッチを上げたりしていたか?)
- ギターのブリッジ際を強く弾いてピンピンいう電子音のような音
- ドネダ、高音域で「パチパチ」いうような音
- 徐々に静かな息音のロングトーンに移っていき、終演。
こちらの演奏も素晴らしかった。ドネダにとって、電気音/電子音とアコースティック音の間に区別は無いことを再確認。
(かきかけ。以下カルテットの演奏)