5/13 Sound Junction @planB
今井和雄氏主催の集団即興演奏のコンサート「サウンド・ジャンクション」に観客として行った感想を述べてみたい。
集団即興-場<Sound Junction> 5/13に向けて 今井和雄
http://www.i10x.com/planb/20070513.html
http://megalodon.jp/?url=http://www.i10x.com/planb/20070513.html&date=20070519134721
今回の参加者は総勢16名(プレイヤー14名+2人組ユニット)。
- イマイカズオ:ウクレレ、ビオラ・ダ・ガンバ、木・竹・金物の各種オブジェ
- ヒグチケイコ:ヴォイス、マイクロフォン+アンプ
- 直江実樹:短波ラジオ。短波も入る古いラジカセを2台使用。
- 平野敏久:エレクトリック・ギター、オシレーター
- 山崎慎一郎:ガットギター
- 尾上祐一:自作楽器。リボン・コントローラ(帯状のタッチパネルで音程を弾くシンセのコントローラ)と自作の創作楽器「回転胡」
- 伊東篤宏:蛍光灯を使用した創作楽器「オプトロン」とトランジスタ・ラジオ
- 池上秀夫:コントラバス
- しばてつ:鍵盤ハーモニカ、フレットレスギター(ガットギターのフレットを抜いたもの)
- mori-shige:チェロ
- 古池寿浩:トロンボーン
- 鈴木學:超音波センサー、レーザー等を使用した自作のエレクトロニクス機器各種
- 佐藤行衛:エレクトリック・ギター、エフェクター、テルミン、玩具、その他ガラクタ類多数
- analogic(坂本拓也・中村修):テレビ、マイクロフォン、ミキサー
- 河崎純:コントラバス
- 進揚一郎:ドラムス
会場の配置はこんな感じ。机はないものの、学校の教室のようにプレイヤーが並んでいてちょっと可笑しい。
(上記の図はあくまで抽象的な“アイコン”であって、“似顔絵”や“使用楽器のイラスト”ではありません)
なお、俺は客席の右奥の上段に座っていて、奥のほうに居る直江氏・平野氏・池上氏・鈴木氏の辺りが良く見えなかったことをお断りしておく。すいません....。
学校の教室に例えると「教室の入口」にあたる位置に今井氏が陣取っている。今井氏としては決して“コンダクション”やCOBRAにおける“プロンプター”のような役割をするつもりはなかったようだが、結果的には、(参加者が意識していたか否かは不明だが)今井氏の演奏や行為が全体の演奏の“句読点”のような役目を果たしていた。
以下にこの日の演奏の大まかな流れを(敬称略)。
- 今井: 木製の板や竹の棒を床に打ちつけて激しい打撃音
- 尾上: リボンコントローラにリヴァーブをかけてスペイシーな電子音を
- 佐藤: テーブル・ギターを金属棒やスプーンでプリペアして鳴らしつつ、テルミンに手をかざして音を出す
- しばてつ: ギターに木の棒をはさんでプリペアしつつ弾く
- ヒグチ: 床に寝転んで、マイクを通したヴォーカリゼーション
- 直江: ラジオの受信周波数をゆっくり動かしていく演奏(?)。唐突に周波数が合って音楽が流れたりする。
- 平野: ギター(スタインバーガー)をアンプに向けてフィードバック音を響かせる
少々時間が経過してから、伊東のオプトロンとアナロジックのノイズが始動。
序盤の演奏は、音が前方に抜けて来る尾上と佐藤の電子音が主導権を握ったような印象になった。それにオプトロンやアナロジックのホワイトノイズが乗ると、全体の音像がマスクされてしまって、アコースティック組(特にコントラバス2名)には厳しい展開だ。
しばらくして、いったん音が沈静した後に、ようやく池上、河崎、mori-shige、鍵盤ハーモニカに持ち替えたしばてつの音が聞こえるようになった。
- 尾上: 楽器を“回転胡”に持ち替えて、ハーディーガーディーのような音を出す。リヴァーブをかけるとシンセやメロトロンのようにも聴こえる。
- 今井: ウクレレを、激しいストロークで弾く。
- 河崎: 強いタッチのピチカートで、音の塊になった中から“根性”で抜けてくる
- しばてつ: 鍵盤ハモニカでのインプロ。
- 古池: トロンボーンを息音だけで吹く
今度は、徐々に“弦楽器部隊”が前面に出てきて、バス2名・回転胡・チェロがトーン・クラスタ的なドローンを形成していった。
いっぽう、山崎はガットギターを周囲の“雑音”を物ともせずにストイックに引き続ける。非常に抑制が効いた良い演奏だ。ふと静まったときに浮かび上がってくるギターの音色が美しい。
- 今井: 板・竹を床に打ちつけ
- 佐藤: 各種の音の出る玩具をエレキギターのピックアップに乗せて鳴らし、その音を増幅・加工する
- しばてつ: 鍵盤を竹の棒(ササラ?)で擦ってガリガリという音を
- 今井: ボウルにビー玉かパチンコ玉のような球を入れて回して鳴らす
- 進: あえて抑揚を廃した、リズムマシンのような単調で無表情なドラミング。
- 尾上: 再びリボン・コントローラーに。アンビエントでサイケデリックな雰囲気。
- 伊東: オプトロンを激しく明滅させる。ただし伊東の他のユニットやプロジェクトのような爆音では鳴らさず音量は控えめ。
- 進: 楽器から離れて、バスドラのヘッドをアナロジックのマイクに被せて干渉
- 今井: 洗濯機用の蛇腹ホースを振り回して風や笛のような音を
- 進+鈴木: ドラム+レーザー照射機:鈴木が制作したバスドラに反応してレーザーの画像が変調する
- mori-shige: ブリッジとテイル・ピースの間を激しくアルコで弾く
- しばてつ: プリペアド・ギターの弦を強くつまんで弾く
- 鈴木: MIDI音源のピアノを鳴らす(詳細不詳)
- しば 鍵ハモニカを吹くチューブで、鍵盤をこする
- 池上 アルコでのロングトーンやスティックで弦を叩く奏法
再び今井が、ブリキ缶やボウルを叩いたり振ったりするとともに...
- mori-shige: チェロをピチカートで弾く
- 伊東: ラジオをオプトロンにかざして蛍光灯にラジオのノイズを拾わせる
- 今井: チャルメラのような民族楽器(朝鮮のホジョク?)を吹き鳴らす
このあたりで佐藤がテーブル・ギターや玩具の演奏をおいて、テレキャスターを抱えてジャズっぽい演奏を始める。これに呼応するかのように池上がウォーキングベースのリフを弾き始め、しばらく両者でインタープレイのようになった。だがこれは、後で佐藤に確認したのだが、全くの偶然であったらしい。佐藤の位置からは他の音は塊になってしまっていて聞き分けることはできなかったそうだ。
演奏は再び伊東のオプトロン(床において鳴らしっ放しに)アナロジックのノイズ、平野のフィードバック音、佐藤のテルミンなどが塊になって周囲を浸していき...一段落してやや静かになってから、
- 今井: ガンバに持ち替え
- 山崎: 武満のギター曲を思わせる
- 池上や河崎のベース
- しばてつの鍵盤ハーモニカ
が主体の演奏が続いた。
終盤になってくると、演奏者は三々五々に演奏を中断して椅子から離れ、客席側に移動して他の演奏者に聞き入っては、しばらくすると戻って演奏、というようになった。
前半、ずっと寝そべったり床にしゃがんで声を出したりマイクをフィードバックさせたりしていたヒグチは、いったん離れてから戻ってくると、今度は立って壁にもたれてマイクなしで激しいスクリーミングを聴かせる。マイクなしのほうがハードでアグレッシヴなのが面白い。
その後は、上記に記したような演奏があちこちで小波のように湧き上がっては静まる、という動きが繰り返されていくうちに、徐々に各人が演奏をフェイド・アウトさせるように終えていき、線香花火が燃え終わって火玉が落ちるかのような余韻を残して、演奏は終わった。
ただ、面白いもので、聴衆としてはアコースティック楽器の音がたまに聴こえてくると、そちらに耳が行ってしまうのだね。特にノイズ音は、ひっきりなしに出ていると、聴いているという意識が消えてしまって、背後に追いやられてしまう。ちょうどエアコンや冷蔵庫の音と同じになってしまうのだ。
今回の演奏では、ノイズやエレクトリック楽器の音を背に受けながら、ブレずに自分の演奏スタイルを貫く山崎の抑制の効いたギター演奏や、鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)というチープな楽器をつかって豊かな音楽的語彙やアイディアを提示してみせたしばてつの演奏には感銘を受けた。
また、尾上のリボン・コントローラと回転胡の演奏は、時として灰野敬二の(爆音ではないときの)エレキギターやハーディーガーディを髣髴させるディープにサイケデリックなもので面白かった。全体のサウンドのイニシアティヴを取っていたのは尾上と佐藤だったのは間違いない。
佐藤の一種“なんでもあり”の演奏は、俺は聴いてる途中では、正直ちょっと Too Much な、もちょっとブレイクいれたり抑揚つければいいのに、と思っていたのだが、終演後に「とにかく2時間ぶっとおしで音を出し続けるつもりだった」と聞いて、それはそれで納得。
今回の試み、終演後、参加したミュージシャンから「2時間を長いと感じなかった」という声が多く聞かれた。俺も、それだけ充実した内容だったと思う。フリー・ジャズ的な“俺が俺が”式の“格闘技セッション”にならなかったのが良かった。
Webで検索した、他の皆様の感想:
mixi日記検索
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しばてつ氏のブログ
http://blog.livedoor.jp/shibat9/
http://blog.livedoor.jp/shibat9/archives/50970678.html
進揚一郎氏のブログ
http://optrum.blog43.fc2.com/
http://optrum.blog43.fc2.com/blog-entry-238.html
直江実樹氏のブログ:参加者のWebページへのリンクが詳しい。
http://blog.goo.ne.jp/mikinaoe42_12/
http://blog.goo.ne.jp/mikinaoe42_12/e/72b04a917eb76967dcd97f485798f003