川仁宏 プライベート・レコーディングを聴く会

千野秀一氏主催による、日本の前衛・アングラ芸術シーンを牽引した重要人物にして「美學校」創設者である故・川仁宏氏が遺した膨大な量の私的録音を聴くというイヴェントに行ってきた。


Live Space planB
http://www.azxy.net/cgi-bin/planb/sche.cgi

2007/04/12 (Thr) 川仁宏 プライベート・レコーディングを聴く会 その1
12【木】16:00-21:00(入退自由)
川仁宏 プライベート・レコーディングを聴く会 その1
Hiroshi Kawani Private Recording Tapes Concert


さすがに平日仕事持ってる身で16時からは不可能(笑)で、19時頃から参加した。



終演(?)後、カセットを片付ける千野秀一さんと新井陽子さん



川仁宏(かわにひろし)略歴(PSFのサイトより引用:一部改行を入れた)

1933年6月19日、東京・新宿区にて生まれる。慶応大学仏文科卒。


'50年代末からアンダーグラウンド・シーンに出没。


'60年代さらに、故谷川雁、故山口健二らと<自立学校>、<大正行動隊>、<東京行動戦線>ほか、公然、非公然の政治活動、そして中西夏之赤瀬川原平、故高松次郎小杉武久刀根康尚足立正生、故城之内元晴らとの、美術・音楽・映像など、さまざまなアートシーンの交差する渦中にあり続け、<ハイ・レッド・センター>にもその前史である<電車内での攪拌>よりコミット。


'64年いわゆる<千円札事件>の事件懇談会事務局長を任じ、法廷史上類ない事態を現出。


現代思潮社入社後、編集長の数年間<稲垣足穂大全>、唐十郎笠井叡赤瀬川原平らの処女出版のほか、アルトー、レリス、バタイユクロソウスキーニジンスキーデリダフーリエなど多数の書目を手がけつつ、一方'69年『美学校』を創設。


中西夏之中村宏、故立石鐵臣、松沢宥、菊畑茂久馬、岡部徳三、木村恒久、故小畠廣志、小杉武久らを教師に招き、故澁澤龍彦、故土方巽、故安東次男、唐十郎、松山俊太郎、ナム・ジュン・パイク刀根康尚らの多彩な講師陣を迎え、美術大学と、それに迎合する既存の美術大学受験予備校のアカデミズムに一石を投じた。


退社後、様々なプロジェクト、<ことばそして/またはうそ>などのトーキング、舞踏、美術関係の執筆をつづけながら、'82年、声、即興のライヴ<マウスピース>を、25歳年下の田中トシとともに開始。この<マウスピース>の初演の観客の一人、旧知の小杉武久と、終了後、再会する。<マウスピース>のライヴ、<川仁宏のフリーキートーク>を並行して開始。'83年、小杉武久とのデュオ。これを機に、ミュージシャン、舞踏家、美術家たちと競演。

こういう人なわけよ。凄いでしょう?


会場の床には100本以上のカセットテープが並べられ、千野さんが適当にめぼしをつけたテープをカセットデッキに入れて再生してみる、という感じで進行。


カセットのケースに残された川仁氏のメモを千野さんが読み上げる。


「○年○月○日19〜翌6時、小杉武久と打合せ:寿司は小杉のオゴリ」(会場、笑)
「...明け方ごろには小杉さんはヘベレケになってたと思われます...川仁さんは飲めないので...」


他には:

  • 「マウスピース」のパフォーマンスのライヴ録音:小さなマイクを口に入れて唸ったり呻いたり叫んだりするヴォイス・パフォーマンスの一種。時折り喉の奥のほうに入っちゃって「グエッ」とかなっちゃってるのも“表現行為”の一環?(笑)
  • エコーのかかったダブっぽいヴォイス・パフォーマンス
  • 竹筒にゴムを張ったのを叩いたりビョンビョンさせたりするパフォーマンス
  • 小杉氏のヴァイオリンとのデュオ:ここでの小杉氏は素晴らしかった。なんというかヒュプノティック(催眠的)で、“持ってかれる”感じ。

etc


こんな感じで、故人の、“音による日記”というか“サウンドクロッキー”みたいなのを、DJのように次々とかけていくというものだった。


これが凄く面白かったのだよ。


俺、もともと、ライヴ会場でもらったデモテープとかデモ用のCD-Rを聴くのが好きなの。完成品のアルバム聴くより好きだったりするかも。ラフだけど得てしてその後正規に出るアルバムより良いんだよな(笑)。ビートルズでも「パスト・マスターズ」の断片的なトラックとかを聴くの好きだしね。


昔「スタジオボイス」でボアダムズを特集したときに、宇川直宏山塚アイが山塚が10代の頃に宅録したデタラメ無手勝流カセットを聴いて腹を抱えて笑い転げるという対談が載ってたけど、そんな感じに相通じるものがあったり。高円寺の「円盤」に置いてあっても違和感ないような。


決して完成度が高いというわけではないのだけどね。単純に出来という観点からすれば、最近の若者の「実験」「音響」etcと銘打った音源のほうが余程洗練されてるだろうしさ。


でも、これらの録音、川仁氏が全然「音楽」にしようとか考えてそうに無いのがいいんだよな。まだ「パフォーマンス」という用語も世間一般には浸透していなかった頃、音楽なんだかハプニングなんだか何なんだか不明の、未分化の状態のモゴモゴしたモノが蠢いているような印象の音。


思うに、仕上げ・完成度なんて求めないほうがいいよ。「やりっぱなし」でいいんだよ録音なんて。


到底一度や二度で聴き切れる分量じゃないので、千野さんは「10人以上集まりそうだったらまたやるかも」と言ってたから、興味ある人はplanB のスケジュールをチェックだ。つうか美学校の生徒さんや卒業生の人ってこのブログの読者の人やマイミクさんにけっこういそうなんだけど、このイベント知らなかった?


PSFから出ている、川仁宏関連アイテム:


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