レビュー: 4/24 スズキイチロウ・カルテット@なってるハウス


俺、一度体験してみなければと常々思ってるのになぜかタイミングや日程が合わずにご縁ができない、というバンドやアーティストが何人かいる。このバンドもその一つ。きっと俺のツボにクる音楽だろうと予想してて、前から是非ライヴで聴いてみたいと思ってたのだが、この日ようやく実現した。期待に違わぬ良い演奏・音楽だった。


会場の“なってる”には、俺がいつも巡回して勉強させていただいてるブログ「eiji の徒然ライブ雑記」のeijiさんがいらしていて、ご挨拶できたのも嬉しかった。この日のセットリストはeijiさんの日記を参照(手抜き(笑))。


eiji の徒然ライブ雑記
http://d.hatena.ne.jp/eiji00/


やる気です - スズキイチロウ ホームページ
http://members.jcom.home.ne.jp/kamedahouse/ichiro/


小森慶子 ホームページ
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/kekota/


スズキさんのギターがECMを思わせるっていう前評判と、小森さんの楽器がバスクラ+ソプラノサックス=ジョン・サーマンじゃん!みたいな期待で(失礼!)聴きたいと思っていたのだが、聴いた印象ではサウンド的にはそんなにモロにECMっぽいという感じでもなかった。出音は今のECMの音よりずっとドライである。それは健全なことだと思う。リヴァーブを深めにかけちゃったら、凡百のニューエイジ・ミュージックのバンドになっちゃうし。


演奏の内容はとてもよかった。特に前半、アコースティック・ギターとソプラノ/バスクラのデュオで1時間、全く飽きさせないというか時間の経過を忘れさせるような、充実したパフォーマンス。


後半は、カルテットでスズキ氏がエレクトリックに持ち換えてのセット。スズキ氏は右用のテレキャスターをそのまま左利きで弾く(ちなみにスズキ氏はサウスポーである。最近サウスポーに縁が多いなぁ)。フェンダーのギターはあちこち金具が角張ってるので、無理して抱えると腕に当たって痛そう(笑・笑い事じゃない)。


スズキ氏の演奏のスタイルは、あえていうなら、ジョン・アバークロンビージョン・スコフィールドの間を往復、というような感じか。エレクトリックを指弾きしてるときはアバクロ(アバークロンビーって凄くピッキングソフトなんだよな。弾くとか爪弾くとかいうよりも、触れるとか撫ぜるという感じ)ピックで強くピッキングしてるときはジョンスコみたいな。


演奏内容は繰り返すが充実していて、また、ほぼ固定メンバーで続けているバンドということもあり、良い意味でこなれていて、聴いていて楽しく心地よいものだった。


彼らのような音楽は、現状のジャズ/フュージョンシーンではメインストリームではないので、中々色々と厳しい状況ではあるとは思う。


フュージョンにはいかず、日本のプログレバンドでよくある“本歌取り”つまり過去の名バンドや名作アルバムのフレーズやリズムパターンを引用して、演奏側も観客もその引用のされかたを楽しむという方向性(例えば吉祥寺シルバーエレファントに出てるバンドとか)にも行かず、フリーにも行かず。


あくまでコンテンポラリーなジャズ、という立ち位置でヴィヴィッドな表現を目指す、というのは、現在、状況的にもけっこう厳しいところだろう。この日はバンドメンバーよりも客の人数のほうが少なかったわけで(涙)


だが、俺、基本的にこういう音楽が、いわば“普段使い”の音楽として、常にどこかで流れている状況があってほしいな、とも思うのだ。


つーかさぁ、今のECMのアルバムって、ぶっちゃけ重いよね。そりゃ常にハイクオリティな作品をリリースし続けてるし、その持続には深くリスペクトするけど....なんか、みんな“今にもみぞれまじりの冷たい雨が降ってきそうなモノクロのジャケット写真”で、ウンザリすることもあるんだよなぁ。


俺が今回初めてイチロウQの音を聴いて、想起したのは、実は特定のECMのアルバムではない。


思い出したのは、ECMのジャケット写真集“Sleeve of Desire”である。



Ecm: Sleeves of Desire : A Cover Story (Edition of Contemporary Music Sleeves of Desire : A Cover Story)

Ecm: Sleeves of Desire : A Cover Story (Edition of Contemporary Music Sleeves of Desire : A Cover Story)


ああいう、明るい地中海の陽光の白い漆喰の壁に、色鮮やかなペンキやトタン屋根が幾何学図形のように、抽象絵画のように配されているジャケットのイメージどおりの音を、また聴きたいよ。今のECMって、富士の裾野のジャズフェスで缶ビール飲みながらマタ〜リできるバンドって皆無じゃない?そういうバンドって、ベース・デザイアーズが最後だったんじゃないのかなぁ。


↑の文章に、ちょっとでも頷くものがある、心あるジャズ・ファンなら、イチロウQを聴け、ライブで。きっと俺がそうだったように、ココロが晴れ晴れとするだろう!


ここ↓の音源の "Free Way II" とか "I Drift" とかを聴いてみて欲しい。
http://members.jcom.home.ne.jp/kamedahouse/ichiro/16/sound.html


ちょっとでも食指が動いたら(笑)ぜひライブにお運びを。