11/26 卵 第五夜@高円寺円盤


tagomago氏主宰の高円寺・円盤でのイベントに行ってきた。実は俺、円盤は初めてだったのだが。


円盤
http://www.enban.org/
installing(TAMARU + YOKOGAWA Tadahiko + SUGIMOTO Keiichi
http://www12.ocn.ne.jp/~tmr/
Sachiko M
http://www.japanimprov.com/sachikom/sachikomj/index.html
TAGOMAGO WEB SITE(更新停止中)
http://www7.plala.or.jp/tagomago/
山田民族F.L.Y&salvia(更新停止中)
http://blog.livedoor.jp/fly66/


tagomago

ラップトップによるソロ。ノイズっぽいのではなく、ピュアな電子音による演奏。オーセンティックなシンセとか、フィリップ・グラスがよく使っていたイタリア製オルガン、ファルフィッサ(Farfisa)*1を彷彿させる音色のセレクトが耳に心地よい。

google:Farfisa Organ

だが、こういう音は、店の天井から吊るされたBOSEの小型スピーカだけではキツい。低音があまり再生できないので、重低音の部分の基音が聴き取れずにビリビリブリブリいう倍音の部分ばかり聞こえるようになってしまう。もっと大音量で腹や顔にズン、とぶつかってくるようなPA、ぶっちゃけクラブのフロアで聴いてみたいような音だった。そこが惜しいところか。

tamaru

tamaru氏のパフォーマンスはベースによるフリッパートロニクス。フレットレスのエレキベースの音をエフェクターのコーラスペダルで2つ分岐してそれぞれデジタル・ディレイに通してループを作り、ディレイタイムを足で変えながら(ディレイのつまみにレンチを差し込んで長いレバーみたいにしてある)演奏。


明確なフレーズ的なラインは弾かず、ヴォリュームペダルでアタックを消した音やハーモニクスを、重ねていく。絵の具をパレットからカンバスに置いていくような即興演奏。音で出来た雲のような不定形の塊が移ろい、たゆたい、現れては消える。


まぁいつもの通りっていやぁその通りなのだが(汗)聴いてて気持ちよい。

山田民族


サンプラーの音源を使った演奏からスタート。カシオトーンみたいなミニサイズの鍵盤が付いた小型のキーボードに色んなサンプリングサウンドが仕込んである。それをディレイでループさせつつミキサーで音量を調節して、カットアップされた音の断片をコラージュして聴かせる。


また、安いディレイには、つまみを回しすぎるとエコー音がつぶれて「ビョビョビョビョ」という発振音になってしまうという特有の欠点(特徴?)があるのだが、それを敢えて使ってノイズとして聴かせていた。


続いて、ギターの演奏をループさせてその場でリアルタイムに“打ち込み”していく演奏。まずクラーベ*2のリズムでギターのブリッジを叩き、それをループにしてリズムトラックにし、上にメロディやE-Bowを使ったサウンドエフェクトを重ねていく。だが、肝心の最初のクラーベのリズムが悪かった(慌てちゃったのかな)ため、その後のサウンドもなんか締まりのない仕上がりに。


3曲目、「もう1曲やります」と言って、やはりアコースティックギターの短めのソロを1曲。


うーん....。サンプラーの演奏にせよ、ギターのループにせよ、この日は演奏が粗かったかなぁという印象。特にサンプラーとミキサーの演奏は、落ち着きがないというか、あっちこっちのツマミをちょっといじってはまた慌てて直すみたいに見えて、リラックスして観てられなかった。なんか、手際の悪い寿司屋の板前みたいな感じで(失礼!)見てて「だ、大丈夫?」となっちゃうみたいな。もしかして機材の調子が悪かったのだろうか。


山田氏を前回観たのは大島輝之氏の企画「硬音」@Loop-Line(レビュー上げてません!ごめんなさい>大島さん)だったのだが、そのときの演奏のほうが良かった。残念。

Sachiko-M

Sachiko姐さんのサンプラーを生で聴くのは、この前聴いたのはCOSMOS@下北沢Mona Recordsだから(わ、6月かよ)久しぶりだ。
http://spluck.jp/event/?page=2&c=1
前の日記:
http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20050619#p2


終演後、tamaruさんから種明かしされたのだが、この日の出音はPAもアンプも使わずに、サンプラーに繋いだヘッドフォンからの音のみ(!)だったそうだ。サイン波の音の抜け方の強烈さを思う。実際、ONJOでも他のミュージシャンが出すガシガシのパワープレイをものともせずに「ピーーーーーーーーー」と抜けてくるもんな。


前半、しばらくは「ブツブツッ」というスイッチの接触不良音のみによるパフォーマンス。しばらくしてからようやく、おなじみの
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
というサイン波の音が出始めた。


この日は珍しく、サイン波を2本(というのか2音というのか)並行して鳴らす演奏が聴けた。周波数の違う2つのサイン波が干渉して第3の音が生まれ、ゆっくりとうねりながら狭い円盤の店内を満たす。まるで水槽にゆっくりと水が満たされるように。頭をゆっくり振って耳の向きを変えると、聴こえる音色が変わったり、音が動いて聞こえるのが面白い。


Sachiko-Mのサイン波演奏の強力なところは、その音の抜けの強烈さとともにもう1点、周囲の音を全て巻き込んで、いわば「リアルタイム・ミュージック・コンクレート」にしてしまうところにある。そもそも、サイン波だけに集中して聴くのはツライはず。あれは、背景の環境音をコミで聴くものなのだ。

  • 客席の衣服の衣擦れの音
  • グラスの氷の傾く音
  • 咳や鼻をすする音(笑
  • 電車の走行音
  • バイクの走行音
  • 商店がシャッターを下ろす音

これらが全て、演奏の一部になってしまうのである。まるで諸星大二郎のマンガ「生物都市」の溶けて融合する街のように。ある意味、無敵の音楽


特にこの「円盤」というお店は、窓の向こうがJR中央線の高架で、電車がひっきりなしに行きかってるのだが、それとサイン波のまざり具合が美しい。あらゆる情動やナラティヴなものから隔絶したSachiko-Mの音が、珍しく感傷的な印象をまとって聴こえる。俺は清宮質文(せいみや なおぶみ)の版画を思い出した。


最後、「ピーーーーー」という音をプツッと止めた瞬間、まるで仕込んであったかのように背後に中央線の電車がゴー、ガタンガタン、ガタンガタンと通り過ぎたのもお見事だった。


この人の演奏の場合、こういう“偶然を必然の中に取り込んじゃう”ようなことがたまにおきるんだよね。大谷資料館の洞窟の中で聴いたときも、サイン波の音がふっと途切れた瞬間に、どこかの岩の隙間から外界のウグイスの鳴き声が絶妙の間で「キョキョッ」と入ったの。あれは良かったなぁ。音源発表しないのかな。

【参考】
大谷石の歴史と巨大地下空間:大谷資料館
http://www.oya909.co.jp/

■2004年4月18日(日)■サインウェーヴと,その残響とのダイアローグ
Sachiko-M Sinewaves ソロ・コンサート
http://www.oya909.co.jp/museum/event/yotei.html

Web-Criでの野々村氏レビュー
http://www.web-cri.com/
("Live Review"→04/04/10,18 Sachiko Mソロ2題)

*1:そういやぁステレオラブにはその名も「ファルフィッサ」というタイトルの曲があるな。

*2:「カッカッカ・カッカ」という、ラテン音楽の基本になるリズム→http://www2.yamaha.co.jp/u/world/index43.html