10/27 百歳の軌道@plan-B
斎藤氏が晴れて50歳になって、名実ともに二人で50+50=100歳になった(笑)斎藤・今井デュオのライブにまた行ってきた。
- 齋藤徹(コントラバス)
- 今井和雄(ギター)
開演少し前にPlan-Bに辿り着いたのだが、控え室が妙な雰囲気....。
「今井さんがまだ来てないんですよ....」
...マジっすか(笑)
開演時刻過ぎてから「どうもお待たせしてすいません(笑)」と今井氏到着。そのままリハやサウンドチェック(まぁ必要ない訳だが)無しで開演に突入。
だからというわけではないだろうが(笑)この日の演奏は、ひときわ強烈だった。俺が今までこのデュオのシリーズで聴いた中では一番“ハードな”演奏。休憩無しの1セット、約1時間。
今井氏:
- 両手タッピング:左手の手の平でナット側をミュートしつつ
- 弦を摘んでバツンバツンとフレットに打ち付けるスラッピング
- 激しいラスゲアート(ストラミング:フラメンコギターで多用される掻き鳴らし)
- 弦が切れるかと思うほどのコードストローク
- ガーン!と強く鳴らしてギター自体を振り回し、ワウワウのような音のウネリを聴かせる
- 流麗で高速なアルペジオ
- ギターのボディ叩き
etc....
斎藤氏:
- ブリッジのギリギリの際を弾いて倍音を多く含んだ、不協和音のようなトーンクラスターのようなノイズ
- アルコで弾くとき、弓を円形に回すようにして動かし、常に弓の毛と弦の擦れるノイズが出るように弾く
- ブリッジ/テールピースの間を弾く
- テールピース自体を弓弾き(!)して重低音のノイズを出す
- 指板に琴の柱(じ)に見立てた木片をはさんでプリペア
- マレットのような棒で弦を叩いてビリンバウ(ブラジルの1弦楽器)のような音をたてる
- ベースを床に寝かせて琴のようにして弾く
- 手の平にプラスチック片(?)を持ってピックのように激しく掻き鳴らす
- ササラ(細く割った木か竹を束ねた道具)みたいな棒で弾く
- ササラみたいな棒を弦に押し付けておいて、そのササラのほうを弓で弾くことでノイズ成分の多い重厚な倍音を出す(しかし、どこからこういう発想が出てくるんだろうねぇ...)
- ベースのボディをはじく・叩く・擦る
etc....
狂乱、物狂い、何かが“降りてきた”という言葉が思い浮かぶような演奏。
俺の以前のレポにも書いたが(http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20050613)、二人でてんでバラバラに音出してて同時に同じような演奏になるという“偶然にして必然”の瞬間が、また何回か訪れた。
特にこの日は今井氏が凄かった。いつもはクールな印象が強かったので。「うわ、そんなに強くシバイたら楽器壊れるだろ(ラミレス*1なのにぃ...)」というような扱いをするのだが、1回も弦切れることもないのは高度なコントロールを物語る。
いやぁ、なんか、出てくる音以外に、お二人の緊張感と気迫に圧倒された。ほら、漫画によくある「ゴゴゴゴゴゴ...」という擬音みたいなオーラが出てた(笑)。
斎藤氏は今や普通のウッドベースっぽい音を出すことは殆どなくなっていて、コントラバスを完全に“倍音を奏でる楽器”として捉えているような節がある。
2004年の"A Tale of two LIONS"ツアー
http://www.japanimprov.com/saitoh/saitohj/twolions/index.html
の「コントラバス私見」に書かれていた考えを更に推し進めたようだ。
http://www.japanimprov.com/saitoh/saitohj/twolions/contrabass.html
なぜ不器用で持ち運びも大変な楽器が存在し続け、必要とされてきたか?それは「倍音」だと思います。お寺の鐘の豊かな音もこの「倍音」のためです。多くの倍音のためには長さ、太さ、大きさが必要です。
私がこだわっているのは「音色」であり「ノイズ」なのだ。
最近の演奏では、特にアルコで弾く時、殆どブリッジの際ギリギリを弾くことが多くなっているようにお見受けする。確かにこうすれば出る音に倍音成分が一番多く含まれるはずだが、反面、通常の弦楽器ではすごく硬いか細い音になってしまう危険も含んでいる。斎藤氏の太く強靭な音は、やはりガット弦を使っているところが大きいのだろうか。
弦はガット弦、それも生ガットに惹かれ、弓はジャーマン式からフレンチ式へ、それもオープン・フロッグのバロック・ボウ(弓の毛を金属で留めていない)へと変化してきました。コントラバスを、馬のしっぽに松のヤニを塗って羊の腸の弦を弾く楽器として遡る形で捉えたいという考えも元々ありましたし、伝統楽器に強く惹かれいろいろな共演を重ねているのも元々の趣味嗜好なのでしょう。
終演後、Plan-Bの控え室で小さな美味しいケーキが出て、ささやかに斎藤氏の誕生パーティ兼打ち上げが開かれた。ケーキもお酒も美味しかったです、ありがとうございました。
歓談時には色々な話題が出て、大友良英氏の話題も出たし、やっぱ最近の若手でノイズや音響っぽいことをやってる若者への厳しい言葉も出たけど....。んんまぁ、あれですよ、落語でいうと大真打から若手への苦言とか、立川談志家元の「あンな下手糞に真打たせやがって」みたいなもんで...。ごもっともなんですけど、まぁ長い眼でみなくちゃなぁ、なんて思ったりする今日この頃であります。
*1:今井氏の楽器はボロボロだが物凄く鳴るようになってきてるらしい