【ネタバレ注意】10/12 柳家花緑新作落語@鈴本演芸場


柳家花緑師が新作の現代落語しかも1時間の大ネタに挑むという特別公演に行ってきた。正蔵・小朝という二人が花を添える*1ということで、鈴本は満員。

  1. 柳家多緑:道灌
  2. 林家 正蔵:味噌煮豆
  3. 春風亭 小朝:親子酒
  4. 林家 いっ平:笊(ザル)屋
  5. 鏡味翁家 仙花・小花:太神楽曲芸
  6. 柳家 初花:金明竹(きんめいちく)*2
  7. 林家 彦いち:創作ドキュメント落語「睨み合い」
  8. ロケット団:漫才
  9. 三遊亭 白鳥:時蕎麦
  10. 柳家 花緑:新作現代落語「ナンパジジイ」


参考サイト
古典落語ネタ帳
http://homepage3.nifty.com/~tomikura/rakugo.html
落語のあらすじ 千字寄席
http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/
落語検索エンジン「ご隠居」
http://www.edo.net/goinkyo/


開口一番の多緑さんは花緑師の三番弟子とのこと。凄く若い、大学生くらいに見える。けっこうイケメン。噺はいささかテンポが速いかという印象。後に大御所が控えてるから緊張しちゃったのか、まだ間が開くのが怖いのかな。


俺は実は正蔵師の噺をちゃんと聴いたことがない。“タレント林家こぶ平”が嫌いだったのでどうも食わず嫌いで、襲名興行も行っていない、お恥ずかしい。襲名興行の内容の評判はけっこう良いようなので(後に出た小朝師もマクラで「最近変わった」と言ってた)いっぺんちゃんと向き合って評価しなっきゃいけないんだろうなぁ。


小朝師の演った「親子酒」は、俺好きな噺なの。俺も酒癖悪いし(自爆)。ただこの噺、本当に年寄りが演じるほうが面白いよな、小はん師の演ってのがよかったな。


初花さんは「寿限無」「大工調べ」のような“言い立て(早口のマシンガンのような口上)”で聴かせる噺。
http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2005/09/post_d5b2.html

「わて、中橋の加賀屋佐吉方から参じました。
先度、仲買の弥市の取次ぎました道具七品のうち、
祐乗、光乗、宗乗三作の三所もの。並びに備前長船の則光、
四分一ごしらえ横谷宗岷小柄付きの脇差し、柄前はな、
だんなはんが古鉄刀木といやはって、
やっぱりありゃ埋れ木じゃそうにな、木が違うておりまっさかいなあ、
念のため、ちょっとお断り申します。
次は、のんこの茶碗、黄檗金明竹、ずんどうの花いけ、
古池や蛙飛び込む水の音と申します。あれは、風羅坊正筆の掛け物で、
沢庵、木庵、隠元禅師はりまぜの小屏風、あの屏風はなあ、もし、
わての旦那の檀那寺が、兵庫におましてな、この兵庫の坊主の好み
まする屏風じゃによって、かようお伝え願います」

「わーい、よくしゃべるなあ。もういっぺん言ってみろ」

これを一息で喋る。しかも何度も喋らされるという。うっしゃ。ようやった。


ただし、噛まずに喋れた、というだけでは、スポーツで言えば“規定に合格”という段階である訳で....。ここからが始まり、という気もする。頑張れ。


柳家初花のホームページ
http://www13.plala.or.jp/shoppana/


彦いち師は現代モノの自作“ドキュメント落語”。電車の中のアブない(?)若者ネタ。


林家彦いちのホームページ:||--hikoichi.com★--||
http://www.hikoichi.com/index.htm


この日すごく興味深かったのは、白鳥師の“トキそば”。噂には聞いていたのだが、あの余りにも有名すぎる噺を一種アナーキーなまでに破壊するパワーには驚愕した。


下手をするとパロディや悪フザケに堕してしまうところを力技で捻じ伏せて落語の側に引きずり込んでくるような。座布団を手打ち蕎麦の蕎麦粉に見立てて捏ね回す様は、まるで“落語”と格闘しているように見える。


新作落語で知られる白鳥師が、トリ前にこの噺を持ってきたのは非常に興味深い。花緑師の噺を意識してぶつけたのだとしたら、白鳥師、相当の策士だ(後述)。


三遊亭白鳥公式ホームページ:三遊亭白鳥の湖
http://niigata89.hp.infoseek.co.jp/


トリの花緑師「ナンパジジイ」*3


時は現代。80過ぎのお爺ちゃんが何をトチ狂ったか喫茶店のバイトの女の子(浜崎あゆみ似なので勝手に「あゆ」と呼んでいる)に惚れちゃって、孫の男の子を使って告ろうとするが、この女の子が実はクセ者で、お爺ちゃんと若者は車で東名飛ばして追っかける羽目に....。というお話。


このお話っていわゆる“ロード・ムービー”だよね。お爺ちゃんと孫という配役だけど、ハグレ者二人と女の子の奇妙な三角関係、ハイウェイ飛ばして追いかけるという物語の構造は、70年代のアメリカン・ニューシネマから、ジム・ジャームッシュデヴィッド・リンチに至るロード・ムービーの伝統を踏襲している(大袈裟)。


ちなみにこの女の子、顔は“あゆ”似という設定になってるが、キャラの造形はどうみても“さとう珠緒”だよなぁ(笑)。そう思ったのは俺だけ?


さて。


今回、非常に興味深かったのは、白鳥師と花緑師の噺を続けて聴いたことによって露になった、新作落語における人物描写と造形の問題だ。


白鳥師の“トキそば”は、舞台は江戸時代だが登場人物はまったくの現代人である。

蕎麦屋、カクテルを作るバーテンの所作でシェーカーを振って)
「....蕎麦湯でございます」
蕎麦湯かよ!

こういう感覚は、最近の若い世代のお笑いに近いものがあるだろう。


それに対して“ナンパジジイ”は、まるで江戸の庶民が現代にタイムスリップしてきたかのように、所作と口調は全く江戸人のものである。主人公のお爺さんは長屋のご隠居、その孫は横丁の若い衆、そしてお爺さんが惚れる女の子は三枚起請の女郎“小照”か。そう、これは、ご隠居と若い衆が三枚起請の小照を追っかけて東名高速を車ですっ飛ばす、というお話なのである*4


これに違和感や抵抗感がなければ、噺の世界にスルリと入っていけるだろう。


だが、そこに引っかかっちゃうと、すんなりと噺の世界に入り込めないかもしれない、なんて思ってしまった。現代に生きる俺たちは、どうしても登場人物を現実の老人・若者に重ね合わせてしまう。特に孫の若者。花緑師の大仰なデフォルメした所作を引いた眼で見ちゃうと、ふた昔前の「島田紳助」のヤンキー漫才に見えてしまうかもしれない。あれは、江戸落語風にカリカチュアされた今の若者なのだ。


カリカチュアとリアリティのバランスの難しさ。


舞台を現代にもってくると、それが如実に顕われてしまう。落とし所が難しい、落語だけに。駄洒落でどうする俺。


ラストシーン。“あゆ”が佇む海岸の、静かに寄せては返す波の情景の余韻はよい。まるで静かな映画のようで。


考えてみたら、ラストシーンに限らずこの噺の場面場面の“カット割り”は、映画やドラマの手法を多く援用してきている。例えば【以下ネタバレ注意】クライマックス、お爺ちゃんが“あゆ”の惚れた男(大阪の鳶職)とあゆのキューピッド役を果たした直後、いきなり場面切り替わって蝉時雨の中お葬式、とか。


だからこの噺は、コトバとシャベリで笑わせるよりも、情景描写で観せる・聴かせるほうが、良さが出るのかも知れない。


うわぁ、相変わらず長くてしかもすごく偉そうだ。いいのか俺。

*1:まぁ飽くまで友情出演という感じで前座噺やって帰って行ったが(笑)

*2:この噺、「金明竹」「錦明竹」と2とおりの表記があるのだけど、正しいのはどっちなんだろう?

*3:俺は演劇関係はまったく疎いんだけど、作者の鈴木聡氏ってNHKの朝ドラ「あすか」(竹内結子のデビュー作だよね)の作者のかたなのね。まぁあれは近来の朝ドラではかなり上出来の部類だったと思う。藤岡弘の濃すぎる演技が面白くて観てたんだけど(笑)。

*4:今思いついたんだが、この噺を映画化して、舞台を現代にしたまま登場人物を皆なぜかチョンマゲと日本髪と着物にしたら、すげぇアヴァンギャルドでかっちょええかも知れない(笑)