眼から摂取するドラッグ―ゴッホ展


ゴッホ展 孤高の画家の原風景
http://www.momat.go.jp/Honkan/Gogh/


混みそうなので有休とって女房とでかける。
雨の平日、それでも結構な入りだった(-_-;;


“炎の人ファン・ゴッホ”の激しい生涯、とやらに全く興味が無いので、パネルの説明文やイヤホンで聞く音声ガイド*1とかは邪魔なだけ、借りない、読まない。
俺にとってのゴッホの絵は、“眼から摂取するドラッグ”だからだ。


だがこの展覧会、実はいわゆる“ゴッホらしい”ゴッホの絵って、意外と少ない。

本展は、単なる回顧展でもなければ、ある特定の時代や主題に絞ったテーマ展でもありません。〈夜のカフェテラス〉など美術史上の傑作を含むファン・ゴッホの油彩30点に、ミレー、セザンヌ、モネ、ゴーギャンなど関連する作家の油彩約30点、そして宗教的な版画や浮世絵など様々な同時代の資料多数をあわせて紹介することで、画家の実像にせまろうとするものです。

つまりサブタイトル「孤高の画家の原風景」がミソであって、ゴッホが影響を受けた・与えた同時代の画家の、同一モチーフの絵をかなり大量に並列して展示してある。バルビゾン派の影響→印象派→耳切って→いわゆるゴッホの絵、という生涯において、やはりゴッホも当時の絵画の潮流の中にいた同時代人であって、決して“孤高の人”ではなかったというのがキュレイターの人の趣旨であるようだ。


でも、どうしても水増し感は免れないなぁ、悪いけど(笑)。でも、地味すぎて今後日本であまり見る機会がないであろう、シャルル=フランソワ・ドービニーなどの、地味だけど滋味のある、純粋に“良い絵”を見ることができるのは貴重な機会かもしれない。


さて本題。“見るドラッグ”としてのゴッホの絵は、下記の3点くらいしかない。
たった3点....。だが3点ありゃ十分、というくらいに強烈だ。


糸杉と星の見える道 Road with Cypress and Star
http://www.vangoghgallery.com/painting/p_0683.htm

あまりにも有名な糸杉と星空の描写。これを凝視していると、渦巻きがホントに動き出すんだよ。錯視みたいに。
こんな感じで↓
http://www.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/index-j.html


犂と馬鍬 Snow-covered Field with a Harrow
http://www.vangoghmuseum.nl/collection/catalog/vglpainting.asp?ARTID=81&SEL=1

農民画家ミレーの作品の模写にも関わらず、セカイのすべてがドロドログズグズと融解していくような筆致。怖い。印象派というよりマックス・エルンストの油彩(雨後のヨーロッパ Europe After the Rain とか)に近い。特に、画面左、蝿や羽虫のように大量に飛び立つ烏の描写が禍々しくて恐ろしい(烏の怖さでは「烏のいる麦畑」のほうが数段上だが)。


夕暮れの風景 Landscape with the Chateau of Auvers at Sunset
http://www.vangoghgallery.com/painting/p_0770.htm

今回の展示で最もインパクトがあったのがこれだ。テラテラと艶のある黄色の空を背景に、真っ黒い虫がビッシリと張り付いて蠢いているような樹。これはヤヴァいだろう。アルコールや薬物依存の過去がある人には見せてはいけないのではないか。


今回、ゴッホの絵の中で最もキョーレツな下記2点がなかったのは残念。とはいえあったら精神に変調をきたしたかもしれんが。
(^_^;;;


星月夜 Starry Night
http://www.vangoghgallery.com/painting/p_0612.htm

烏のいる麦畑*2
Wheat Field with Crows
http://www.vangoghgallery.com/painting/p_0779.htm



帰路、竹橋のパレスサイドビル(ようは毎日新聞の本社ビルね)に入っているライオンで晩酌。
http://r.gnavi.co.jp/g008209/menu5.htm

薩摩焼酎をお湯割りで:

  • 上無(かみむ) 
  • 音波(おとなみ)

ウマー。 

*1:しかし、みなさんこぞって借りてくのね、あの機械。引っ張り凧のようだった。みんな絵にまつわる“云われ”やTV番組「知ってるつもり」的な身の上話を鑑賞に来てるのね....。

*2:村崎百郎によると、この地平線上に群れ飛ぶ烏の描写がデムパな人には「たまらなくイヤーンな感じ」であるのだそうだ。(「電波系」1996)また、小林秀雄はこれの複製画を見て「巨大な目に睨まれたように」「へたへたとその前にしゃがみ込んで了った」のだそうな(「ゴッホの手紙 (角川文庫)」1948)まぁ相変わらず大袈裟な爺さんだこと(笑)。