灰野敬二@六本木SuperDelux

宇宙全体が桜に包まれたような夜に、

灰野敬二を聴きにいく。

今回はHURDY GURDY & ELECTRONICSセットということで、使われていた機材は下記のとおり。

  • Alesis Air Synth2台
  • Alesis Air FX2台
  • サンプラー(BOSSかYAMAHA)2台
  • デジタルリヴァーブ(BOSS)2台
  • ミキサー

Air Synth/Air FXをご存じない方はこちらへ。

Alesis ホームページ
http://www.alesis.jp/
なんてこった、もう生産完了だそうだ
http://www.alesis.jp/products/pd_airsynth.html
http://www.alesis.jp/products/pd_airfx.html

  • エレクトリック・ハーディ・ガーディ
    • メロディ弦4本?:糸巻の数から。カバーが付いてるので弦は判別できず
    • ドローン弦:メロディ弦の両脇にそれぞれ2+3本、計5本
    • 共鳴弦8本
    • コントロールノブ4個:用途は不明
    • なんか物凄い数のキー(鍵盤)が付いている。普通のハーディ・ガーディはせいぜい2オクターブくらいしかないはずだが。微分音用か?


ハーディ・ガーディをあまりご存じない方はこちらへ。

Vielleux in Thailand
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/8316/

Alden and Cali Hackmann's Hurdy-gurdy Site
http://www.hurdygurdy.com/hg/hghome.html

Googleによるイメージ検索:
http://images.google.co.jp/images?q=Hurdy-gurdy&hl=ja&lr=&rls=GGLD,GGLD:2004-44,GGLD:en&sa=N&tab=wi


【前半:エレクトロニクス】
エレクトロニクスの機材は上記に記したようにペアで用意されていて、基本的に、片方で音のループを作ってはもう片方でソロ演奏、というのを交互に演るという形で進んだ。

  1. Air Synth/Air FXによるいきなり大音量のスペイシー・サイケな音響
  2. サンプラー:民族楽器の打楽器(フレームドラム?)のようなドウンッという低い音
  3. サンプラー:大量のシンバルを打ち鳴らすような音
  4. Air Synth/Air FXの演奏
  5. Air Synthを弾きながら歌う
  6. サンプラー:サスティンの短い「パンッ」という、小振りなパーカッションのような音のループ
  7. サンプラー:怒涛のシンバル連打
  8. シンバル音のループが重なって大瀑布のような音の壁+歌
  9. 再び民族楽器系打楽器音のソロ

Air Synth/Air FXの演奏がスペイシーでサイケデリックで、高揚感を感じられて良かった。


灰野氏はかねてからの多楽器主義者(?)で、様々な楽器を使いこなしてきた。ギター、ドラム、パーカッション、ハーディ・ガーディ、各種民族楽器....。ここでいう「使いこなし」とは単に「弾けるようになった」という意味ではない。己の“表現”の手段として楽器を自家薬籠中のものとしてきた、という意味であって、これは驚異的に凄いことだ。


だが、ここ数年のデジタル機器に取り組み始めてからの灰野氏は、恐縮だがギターや打楽器で達している境地にまでには達していないかなぁ、というのが正直な感想だった。
さすがの灰野敬二でもデジタル機器を“表現”に取り込むのは難しいのか、なんて厄介なんだデジタルって、と思っていたのであった。


しかし昨今のAir Synth/Air FXの使いこなし様を観て/聴いてると、とうとうモノになった、“表現”になった、という手応え(聴き応え)を感じる。なんか一リスナーの分際で不遜な感想だけど。
弾いてる時の見た目も、占い師や魔術師みたいで、絵になってるしね。(^_^)手をかざして、激しく振りほどいたり、何かパワーを送り込むかのようにぐっと力を入れて集中してるところとか。


【後半:エレクトリック・ハーディ・ガーディ】

  1. 低音のドローンからスタート:ホイール部にアルミ箔を挟んでプリペアしてある模様。
  2. 和楽器の笙のような高音をかぶせていく
  3. そのまま弾き語りに移行
  4. キーを押さずにじかに弦を叩く
  5. クランク(ハンドル)を狂ったように回して
  6. キーを押さずにメロディ弦をピチカートで弾く:ウードのような音色
  7. クランクを回しながら弦はピチカートで弾く
  8. それらの合間にも歌とヴォーカリゼーション:何かが“降りて”きているかのように
  9. 再びホイール部にアルミ箔でプリペアして弾く:倍音の出方が変わるみたい
  10. キーを押さずに弦をスライドギターのように弾く
  11. だんだん音数少なく、テンポもリタルダントに
  12. つぶやくような歌
  13. 再度、ノンストップでクランクを回して狂おしげな演奏

いや素晴らしい。他に何が言えるだろう。


楽器の発音原理上、非常に倍音の多い(セミの鳴くような、とも形容される)ハーディ・ガーディの、分厚い倍音の束に全身が包まれて、高揚しているのに同時に安らいでいるような不思議な感覚に導かれた。騒音の中の静寂。滝壺の傍で感じる静けさ。


もしかして、松尾芭蕉が「閑けさや岩に染み入る蝉の声」と詠んだ時は、こういう精神状態だったのではないか。アルファ波出てるとか、ドーパミン出てるとか。


この状態で灰野氏独特の、つぶやき、ささやき、叫ぶうた:

くれ ない いろの....
みんな とけて しまえる....
カタチ が できる まえの....

ただ ただ たった ひとつの 明日....

ここ に やどる いし を すりぬけ....

そこ に いる ことが
まだ よろこび には
なって いない   けど
ほんとう は....

こんなコトバが乗ると、本当に“持ってかれる”気がする。