4/13山内桂 Salmo Rise vol.3(ゲスト:神田晋一郎)
Salmo Rise の第3弾は、ピアニスト神田晋一郎とのデュオ。ピアノというのは厄介な楽器で、山内氏のようなスタイルの演奏家と同等のレベルで立ち会える人はなかなか居ない。その中でもこの人なら、ということで俺から神田氏に競演をお願いした。この日は即興/現代音楽畑で最もコアなというかコワモテな(笑)リスナーがずらりと揃ったコンサートになった。
(以下敬称略。カッコ内は山内使用楽器)
前半:
- 山内ソロ
- インプロヴィゼーション(alt)
- hi, (alt)
- 神田ソロ:インプロヴィゼーション
後半:
- 山内+神田デュオ
- インプロヴィゼーション(alt)
- Salmo (sopranino)
山内ソロ
- キー音+タンギング
- フラジオ、キー音、実音が平行して綾織りのように動いていく
- 実音の成分が増していき、いわゆる重音奏法に
- 徐々に息音中心の演奏に
- ロングトーン
- 再びキー音
- 息音+実音の低音域を響かせる→低い地鳴りのような音
「hi,」は、聴いた事のあるかたならご存知の通りアルト・サックスで超高音域のロングトーンを大音量で延々吹き続け、「音」というよりは空気を使って鼓膜を物理的に直にスクラッチするような曲。聴いてた女房が「音に酔った」と言って途中で退席した(笑)。
インプロの演奏は、割と低音寄りの音域で、汽船の霧笛や地鳴りのような音を使った重音奏法を聴かせていたのが新機軸ではないかと思った。
神田ソロ
- しばし沈黙
- ポツポツと雨音のように演奏開始
- 中高音域中心
- 断片的なフレーズ、だがどことなくメランコリック
- 自制心・抑制の効いた演奏
- ペダル踏んで残響を延ばす
- ふとペダルをもどして敢えて響きを中断
- ヴォリューム落としていく
- ピアノで出せる極小音まで:鍵盤の木の音やペダルの軋みのほうが大きいくらい
- 再び、メロディに成りかける前に留まるような断片的なフレーズをポツポツと置いていく
- 徐々に弾く音が低音域に移行
- 低音域中心に、低速で「グリーン・スリーヴス」
門天ホールは原則、内部奏法禁止なので、この日の神田の演奏は内部奏法無し。山内の演奏をCDで聴いてしかも内部奏法禁じ手、とあって本人は相当悩んだらしい。だがその「縛り」は結果的に吉と出た。神田は非常な集中力をもって演奏に臨み、緊張感が最後まで途切れない、レベルの高い即興演奏になった。特に中盤、どんどん音量を落としていって、ついには鍵盤を押し下げる音やペダルを踏み込み音より小さな音をピアノから出し、それに聴衆の耳を引き込んでみせた演奏は見事だった。まるで、双曲線(反比例の曲線)の、ほとんどゼロに近い所で音を聞かせる、そんな演奏。
この日、内部奏法を許可されていたら、もしかしたら神田の演奏はもっと「饒舌」になってしまったかも知れない。それはそれで面白かったかも知れないが、この日の鍵盤だけ(というのも変な表現だな)の演奏ほどの、息詰まるような集中と緊張感を齎せたかどうかは分からない(誤解だったら神田さんごめんなさい)。
終盤、非常にスローペースで聴かせた「グリーン・スリーヴス」の変奏曲も美しかった。俺はなぜか「ポール・ブレイの演奏を低速にして長い間を置いたらこうなるんじゃないか」という印象を受けた。
デュオ
(山内)
(神田)
- 1音だけ、ペダルで長く伸ばす
- 続いて2音を同様に長く伸ばして、不協和な音の重なりがうねりを作る様子を聴かせる
- ぽつぽつと徐々に音が増え始める
- ダークで陰鬱な、不安をあおるようなフレーズのソロ
- 再び1音のみ弾いて沈黙、音を徐々に足すような演奏(今度はペダルなし)
- 以上のような演奏を1サイクルとしてバリエーション加えつつ繰り返される
- 沈黙
- 聞こえないくらいの極小音
- ペダルによる長い残響を聴かせる
- いきなり大音量の強打一発
- 再び小さな音で断片的な音
- 時折不意打ちのように大音量一発がさしはさまれる
- 出す音の「間」が徐々に大きく開いてきて、終演
聴いている側が、息や身じろぎをするのも憚られるような、緊張感の高い演奏。途中、お互いにインタープレイのように同様な音をキャッチボールする展開も山内の演奏では珍しい。
だが終盤、神田の側が、演奏を終える契機を逸してしまったのは惜しかった。山内と神田でほぼ同時に沈黙に達した瞬間、あそこで演奏を終えていてよかったはずだと思う。その後、しばしの沈黙のあと神田がまたポロポロと弾き始めてしまい、山内が「アレレ?」という感じでまた演奏を始めるくだりから先は、無くてよかった。最後に来て神田の緊張の糸が切れてしまったということだろうか。
とはいえ、演奏のレヴェルは非常に高かった。最近の山内氏は常に一定以上のレベルの高い演奏を維持しているが、この日の演奏は最近の中でも出色の出来だったのではないかと思う。
Salmo
最後のこの曲のデュオは、テーマとなるシーケンスのモチーフを神田のピアノが山内のサックスを追いかけるように奏で、絡み合い、2本の紐が綾となって1本の縄に撚りあわせられ、また解ける、という展開。シンプルなモチーフがわずかにズレながら重なり合い、モアレ模様のような美しい響きを形作る、素晴らしい演奏になった!
いやつくづく、企画して良かったと思った。ご来場の皆様、まことにありがとうございました。このデュオは、機会があればまた聴いてみたい、または企画してみたい。今度はぜひ、内部奏法ありで!!