1/22 Come Sunday Duo@Barber富士


1/22はCome Sunday Duoツアーのうち唯一のデュオによる演奏ということで期待して行ってきた。


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http://members.jcom.home.ne.jp/barberfuji/69.html

  • アシーフ・ツァッハー (Tenor Saxophone, Bass Clarinet):椅子に掛けるのではなく立って大きく身体を振りながらの演奏
  • 中谷達也 (Percussion)
    • ラディックのバスドラ、フロアタム:Barber富士の常連のお客さんから借りたらしい。
    • ピッコロスネア
    • 前面に大きなゴング(中国風の奴ではなくシンバルを平たくしたような形状のタイプ:つまり中国銅鑼のような「ふち」が無い)
    • シンバル数枚:スタンドに金具で固定されておらず、外して手で持って叩いたりできるようにしてある
    • 割れてペロペロになったシンバル:スネアやフロアタムのヘッド(打面)を擦る演奏に使用
    • 大小のリン(仏具の鐘)数個
    • ウッドブロック
    • ロートタム
    • 叩く道具:普通のスティック、竹みたいな材質でできた長いスティック、マレット、ブラシ、泡立て器のロッド
    • 弓:ヴァイオリンの弓と、謎の民族楽器用の弓。

(以下、中:中谷 ツ:ツァッハー。敬称略)

  • ツ:バスクラで演奏開始。
  • 中:シンバル中心に演奏開始。トルコの軍楽隊かチンドンを崩したようなリズム
  • ツ:どことなくクレツマーを思わせるフレーズ
  • 中:割れたシンバルでスネアのヘッドをゴシゴシ擦る奏法
  • ツ:徐々に明瞭なフレーズのないアブストラクトな演奏に移行
  • 中:ゴングを弓奏しながら足でバスドラ連打
  • 中:ゴングを弓で激しくしごいて、大きな残響音を:まるでエフェクターのディレイ(エコーマシン)を発振させたときのような
  • ツ:途切れ途切れのかすれたようなロングトーン

ここの展開は素晴らしかった。幽玄で凍てつくような音響。ジャズ/インプロというよりは、なんかピンク・フロイドの深いエコーかけた即興演奏とかドローン系ポストロック・バンド(フライング・ソーサー・アタックとかゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーとかモグワイとか?)を彷彿させた。ああいう音のバンドを轟音じゃなくアンプラグドでアコースティック楽器でやるとしたら、シンバルやゴングを弓奏するのって結構使えるんじゃね?そんな奇特な奴がいるかどうかは疑問だが(笑)

  • 中:ドラムセット全体を使って比較的普通(笑)の演奏
  • ツ:いわゆるフリー・ジャズっぽい、高速のブロウ
  • 中:リンなどの金物をフロアタムに乗せて叩いたり擦ったり
  • ツ:低音でオブリガード:スローでダークで不穏な雰囲気
  • 中:割れシンバルを擦る
  • 中:シンバルを弓奏。幻想的で幽玄な音の世界。
  • 中:リンを両手に持って底部をコリコリと擦り合わせる
  • 中:マレットを使ってドラミング
  • 中:出た!必殺「シンバル吹奏」奏法

小型のシンバルをスネアのヘッドに伏せて、中央の穴(スタンドを通す所)に口を付けてラッパのように吹く。当然、音階とかは吹けないんだが、ほら貝とか民族楽器のラッパみたいな音がする。これが、スネアが共鳴箱になるので結構デカい音!

  • ツ:テナーに持ち替えてフラジオのロング・トーン
  • 中:スティックを使ってドラミング
  • ツ:いわゆるフリー・ジャズっぽいブロウ。徐々に熱を帯びて大音量の演奏に。
  • 中:ツァッハーを煽るようにフリーなドラミング。こちらも大音量に。
  • ツ&中:ひとしきりフリー・セッションが続いた後、ふいに演奏が途切れて、終わり。

終盤のフリー・セッション、音デケーよ。PA無しにも関わらず耳鳴りがするほどの大音量。これは後半が思いやられる、と密かに危惧したのだが、その予感は的中してしまったのであった(汗)


後半も、前半と同様、ツァッハー氏のバスクラからスタート。

  • ツ:静かでダークな雰囲気の演奏
  • 中:金物とウッドブロックをスティックで叩いてチャカチャカキンキンとした音の演奏
  • 中:硬質な印象のドラミング:高速で手数も多いが決して“グルーヴ”しない、所謂“フリーインプロ系”のドラミング。敢えて“歌ったりストーリーを綴ったりしない演奏”というか、一打一打がブツ切れで、叩いたその場で鳴り終わってしまい、次の音に繋がっていかない、みたいな。こういう演奏は個人的に好み。
  • 中:割れシンバルでスネアのヘッド擦る
  • ツ:静かな演奏から徐々にスピードアップ
  • 中:シンバル弓奏
  • ツ:中音域で高速のアルペジオをレガートで延々と繰り返す:シルクロードや中近東の民族音楽の笛のような音色と演奏。エヴァン・パーカーアルペジオバスクラでやってるような印象も。

この演奏がこの日のツァッハー氏の白眉。いつまでも聴いていたいと思わせた。シンバル弓奏の上に乗った、シンプルで素朴な音の繰り返しなのだが、これが最高に良い。まるでメソポタミアの河岸を吹き渡る葦笛のようだった。


そういえば、4年前の同じバーバー富士のライブで、打ち上げでちょっと話した時にツァッハー氏は「僕はイスラエル生まれなんで、音楽的なルーツは中東周辺にあると思う」「僕のアシーフという名前はイディッシュ語で“収穫”という意味なんだ」なんて話をしてくれた(つまり彼は「みのる君」なのだ)のだが、そんな事を思い出した。

  • 中:リンをスネアの上に並べて細いスティックで叩き、ベルのようにリリリリ...と鳴らす。澄んだベルの音が店内を満たす。
  • ツ:中音域から徐々に低音に降りて行き、静かで断片的な演奏に
  • 中:再びシンバル吹奏
  • ツ:中谷のシンバル吹きに応じるように、息音と高音のフラジオによる演奏
  • 中:リンを両手に持って底部をコリコリと擦り合わせる
  • ツ:徐々にスピード/音量をアップしてフリー・ジャズ風ブロウに移行
  • 中:金物中心(シンバルやリンやロートタム)のドラミング
  • ツ:重音奏法:低音と高音を交互にまたは同時に出す
  • 中:徐々に音量上げてフリー・ジャズ風ドラムに
  • ツ:テナーに持ち替え、ますますヒートアップ:典型的なフリーのテナーに。はっきり言ってうるさい
  • ツ&中:ひたすら吹きまくり、叩きまくりの演奏が延々と続く
  • 中:ふいにストレートなジャズの4ビートに
  • ツ:中谷に応じてジャズ・イディオム中心の演奏
  • ツ&中:再び大音量のフリー・ジャズが延々と続く。
  • ツ:サーキュラーブレス(循環呼吸)奏法を駆使してノンストップで吹きまくり
  • 中:再びゴングの弓奏。弓2本でゴングを弾く。
  • ツ&中:力尽きたようにスピード&音量ダウンして、終演

以上。


もう、後半はずっと耳鳴りがして呆然としていたので、細かいところは憶えていない。演奏のどこかでコルトレーンの「至上の愛」かなんかのフレーズが出たと思ったがどこだったか忘れた。


うーむ。


残念ながら、今回の演奏の大音量のフリー・ジャズ大会的な面は、俺は評価できない。序盤や中盤の繊細な演奏を台無しにしたと思う。


恐らくあれは、彼らが米国で、ストリートで行なっている演奏をそのまま持ち込んだものなのだろう。タフな土地で通行人の耳を掴んで無理矢理振り向かせるような演奏に思われた。だが、この日の会場にそれが合っていたとは思えない。


バーバー富士のお店はデッドではなく音が良く響く(実はそれが弱音系の即興ライブを数多く成功させてきたカギでもある)ので、過大な音量は音が回りまくっちゃううえに倍音がキンキンと強調されてしまい、聴衆の耳を攻撃することになった。聴いてる側はホントに耳が麻痺するというか、本能的に耳にリミッターがかかった状態になってしまうので、大音量にも関わらずダイナミクスを聞き分けられなくなってしまった。聴こえてくるのがベターっとした音の塊になってしまい、奥行きや広がりを感じられなくなってしまう。これがまず問題点のひとつ。


更にもうひとつ、この日のフリー・ジャズ調の演奏が、決して音楽的に豊か・充実していた内容とは言えない出来だったというのがある。


特にツァッハー氏のほうにそれが顕著だった。終盤延々と吹きまくる中で、段々ネタ切れになっちゃって手癖的なクリシェを繰り返して繋ぐ、という面が多々見られた。ツァッハー氏は元々フレーズの語彙がそんなに豊富なタイプではないうえに、特殊奏法で演奏のヴァリエーションや音色のグラデーションをつけるスタイルではないので、大音量で続けると平板でメリハリの乏しい演奏になってしまうのだ。はっきり言って途中で飽きた。


俺は別にフリー・ジャズが悪いとか古いとかそういうことが言いたいのではない。音楽的に豊かかどうかが真の問題なのだ。


その証拠に、上記に記した民族楽器の笛風のシンプルな繰り返しは、延々と続いても一向に飽きなかった。むしろもっとずっと聴いていたい、と思ったものだった。演奏者の動機や衝動が減衰したり枯れたりしているのに無理に演奏を続けようとすると、それが演奏にモロに出て聴衆にも分かってしまう。これが即興演奏の怖いところだ。別に音を出す衝動が引いていったのなら、そこで吹き止めたり沈黙したりすればいいと思うのだ。


ただ、ツァッハー氏は別にそういう問題系を自分の表現の中心に据えてるタイプではなかったみたいだ。演奏しててあっけらかんとして超・楽しそうだったし。俺も一緒にノッて、コブシ振り上げて「イエーイ!」とかやればこの印象も変わったのかなぁ。でもそういう気にはなれなかった。


まぁ、事前に余計な期待をしていったのが間違いだったのかも。4年前の来日時、いまはなき代々木オフサイトとバーバー富士での演奏では、大音量を出す態勢やアクションで敢えて超小音量を出すという、まるで“ささやき声で怒鳴る”みたいな演奏がサイコーだったという思い出があったので、拍子抜けしたのかも。


ネットで拾った、今回のツアーに関する皆様の感想。評判いいじゃねぇか。俺がもっと素直に楽しめばよかったのか。


http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/archives/50589256.html
http://blog.goo.ne.jp/satosi_10/e/942cdc1b28f7b08a9af2236fd1d01527
http://blog.goo.ne.jp/bobbida/e/b27d71dc2e4fe6095bdd811dbbbcd539
http://d.hatena.ne.jp/callithump/20070121
http://d.hatena.ne.jp/doubtwayoflife/20070123
http://tabularasaruishii.blog78.fc2.com/blog-entry-39.html
http://air.ap.teacup.com/scissors/242.html