1/20・21 渾沌受胎@プロトシアター

こないだの日記で予定に入れていた、入間川氏のチェロと喜多尾浩代氏のダンスの公演に行ってきた。
http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20070111/p1


iRU's WorKs 入間川的日々是労働
http://www.realdoor.com/iru/
日常の二乗 - 入間川氏のブログ
http://irusworks.blog15.fc2.com/
http://irusworks.blog15.fc2.com/blog-entry-10.html
喜多尾浩代オフィシャルサイト
http://www.nsknet.or.jp/~kitao/
プロトシアター
http://homepage2.nifty.com/proto-theater/


フライヤーやWebサイトのこの写真を見ると、
http://www.nsknet.or.jp/%7Ekitao/info/index.html
小川洋子博士の愛した数式」の数学者みたいに、衣装に紙片が沢山くっついている。どうやってるんだろうと思ってたんだが、実際に見てみて解消。あれは小包とかに付けるタグ(荷札)だったのである。細い針金がついてて荷物にくくりつけるやつ。
こういうの↓
http://www.altech.ne.jp/category/772_1_0.htm
この発想は無かったわ(笑)


会場に入るときアンケートと一緒にハガキ大のフライヤーを渡されたのだが、そこにも1枚タグが結び付けられていて、謎の警句っぽい文言がタイプされてる。俺のもらったやつには:

「めちゃくちゃ見ているのに声掛けない間の時」

1枚ずつ全部違うようで、身体に括りつけてあるのにも同様に何か書いてあるようだった。


会場のフロアには既に喜多尾氏が蹲っている。黒のワンピースに足には大きめのスニーカー。髪やワンピースには荷札が多数括りつけられている。床にはやはり何か書かれた白いカードがトランプの神経衰弱のように広げて並べられている。会場が暗転して入間川氏がステージ左手奥の角にスタンバイして開演。


(以下喜:喜多尾、入:入間川

  • 喜:暗めの照明の中、両手に白い紙を持って床を雑巾掛けのように擦る。静寂の中、紙を擦る音だけが聞こえる。床を擦りながら昆虫や蜘蛛のように手足を動かして移動。身体じゅうに括りつけた紙がカサカサという微かな音をたてている。
  • 喜:その姿勢のまま脚を大きく激しく振り下ろして「タンッ!」という歌舞伎のツケ音のような強烈な音を数回。
  • 喜:更に床を這いながら前進。壁まで辿りつくと徐々に立ち上がり、引き続き床と同様に壁を擦る。いつのまにか靴を手に持って壁を叩く。
  • 入:冒頭15〜20分の間、全くの無音。
  • 喜:壁に頭を付けて静止。頭の上に靴を乗せている。
  • 喜:突然靴を振り落としてフロア中央に仁王立ちに。
  • 喜:ゆっくりと身体を捻じり始める。紙の擦れる音。ようやく入間川氏入る。短く鋭いフラジオを断片的に。
  • 喜:手足を広げてカエルのように跳ねる。激しい紙の音。
  • 喜:摺り足でゆっくりと回転しながら踊る
  • 入:紙の音に呼応するようにコル・レーニョで破片のような音を
  • 喜:突然、床に倒れこんで静止。
  • 喜:手で床を叩く
  • 喜:床に寝転んだまま回転→徐々に起立
  • 喜:床を飛び跳ねて激しいダンス
  • 入:激しいアルコによる演奏
  • 喜:マイム風の動き。誰かと話したり笑ったりお辞儀したりetc...口でパクパクと音をたてる(発声は無し)。入間川氏も静かな演奏に
  • 喜:引き続きマイム的な動き:床から綱引きのように何かを引っ張る
  • 喜:身体に括りつけた荷札の紙を一つづつ握り潰していく
  • 喜:紙を握り潰し終えてからダンスを再開。紙の音が変わる:カサコソいう音から、カラカラという乾いた、まるで枯れたぺんぺん草や、または竹製のウインドチャイムのような音に
  • 入:チェロのブリッジのきわでトレモロで弾く:パルス状のノイズ
  • 喜:チェロの演奏途絶えるとともに、走り回って踊る:乾いた紙の音のみ
  • 喜:歩き回り、壁を叩き、窓枠を掴んで揺する
  • 喜:突然、梁(はり)に飛びついてぶら下がる:そのまま数分静止
  • 喜:床に落下して蹲る:落下した床には冒頭に並べていたカード
  • 入:弓を置いてピチカートによる演奏
  • 喜:起き上がり、床のカードを拾い集めてワンピースの中にたくし込む
  • 喜:立ち上がってゆっくりと踊る:踊るにつれてカードが産み落とされるように床に散らばる
  • 喜:長尺のダンス
  • 入:アルコによる重音を交えたアグレッシヴな演奏
  • 喜:踊り終わり、ステージ中央に立ち尽くす
  • ステージが暗転して終演。

こんな感じ。2日とも内容はほぼ同じだが、2日めのほうが喜多尾氏の靴をタァン!と打ちつけるタイミングが、より間を取ったものになっていたのと、入間川氏の沈黙がより長かったのと、終演間際、喜多尾氏が立ち尽くす中、入間川氏による長いカデンツァが入って終わるところが異なっていたくらい。


喜多尾氏の狂気や強い疎外を想起させる動き。俺は山岸涼子の漫画「スピンクス」(傑作。凄い怖い)を思い出していた。あれにも主人公にペラペラした紙で出来た人形が小さな声でペラペラクスクス喋りながらまとわり付くというシーンがあるし。または、ジブリのアニメ「千と千尋の神隠し」に出てきた紙の「式神」と竜に化身した少年「ハク」の戦闘を思わせる。


終演後、床に散らばったカード。

拾った一枚には

「マイクロスリップしない意識外の非日常」


(マイクロスリップは、ジェームズ・ギブソンアフォーダンスの用語)


その他のカードも、不安・疎外・矛盾・ストレスetcを記述した断片的な語句が並ぶ(喜多尾氏が学校の授業で生徒さんにアンケートみたいのを取ったときの文言なんだとか)。


纏わり付いてくるもの、自分の行動を意識下で外部から規定しコントロールするもの。それを振り払うか黙殺するか、内に取り込んだ後に再び世界に投げ返すか。良く練られたシンプルで明快なコンセプトを効果的な演出で構成した、良い舞台だったと思う。


実は1日目の打ち上げの席では演劇関係の人々から入間川氏と喜多尾氏に対して直接かなり突っ込んだ疑義や異論がついていたのだが、なんでそんなに注文がついていたのか良く分からなかった。俺がまだダンス/パフォーマンス系の表現について素人だからというのもあるのだろうか...。うーん。でもそのせいか(?)2日目のほうが出来が良かったように思えた(笑)。喜多尾氏にそう感想言ったら賛同されたし。