8/7 モネノヒビキ@高円寺百音

8/5の(h)ear rings vol.6@千駄ヶ谷Loop-Line は、立川龍志四季の会に浮気しちゃったんで(ゴメン)俺は行けませんでした。


当日の様子は、他力本願ながら代わりにこちらのレビューを。
http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=33613&pg=20050805
http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=33613&pg=20050806


その代わりといっちゃ何だけど、8/7に高円寺の小さなカフェで行われた吉村氏主催のライブに行ってきた。

  1. 吉村光弘(acoustic feedback)ソロ
  2. 秋山徹次(acoustic guitar)ソロ
  3. 山内桂(alto sax)ソロ
  4. トリオ

会場は、高円寺の住宅地、路地にある普通の民家を改装した本当に小さなカフェ。旧代々木Off Siteの3分の1くらいの広さで1階のみ。別にこの手の音楽をやるイベントスペースというわけではないようだ。


ビールがなんと!バス・ペールエールの生ビール!これはポイント高い。こだわりだなぁ。


10人も入れば一杯になってしまいそうなお店に計12、3人、ややギュウギュウ詰め気味。お客さんとして来ていた女の子が、山内氏に自分のサックスを見てもらっている。「最近の日本製はコレくらいの(廉価な)楽器でもけっこうしっかりしとる」とか。


壁に古い柱時計がかかっていて、カチカチと時を刻んでいる。古いせいか、リズムがカーッチ・カーッチとシャッフル気味なのはご愛敬。これがけっこー大きな音で、各人それぞれソロといっても実際は“柱時計とのデュオ”みたいなかたちに*1

吉村光弘ソロ

吉村氏は開演前からフィードバックの音を流してBGMに。


お店の外はごく狭い路地で、地元のおばあちゃんがショッピングカートを引いて通ったり、向かいのお店が、やはり民家を改装した古着屋さんで、犬を散歩させたお友達が顔をだしたりする様子がガラスごしに見てるとなんかサイレント映画みたいで面白い。


演奏は前々回のLoop-Lineと同様、マイクスタンドで高い位置に立てたステレオマイクロフォンと、両手に持ったヘッドフォンの間でアコースティック・フィードバックを起こして音を出す、という演奏。


座っての演奏だったLoop-Lineと異なり立って演奏。腰の高さで、両手に持った左右のヘッドフォンを、わずかに動かすことで音を変化させる。見ていると“音のダウジング(水脈探し)”のようだ。


基本的にはサイン波のフィードバック音で、貝殻のように合わせた左右のヘッドフォンをわずか数ミリ離したりずらしたりすると音が変化する。変化の瞬間、線香花火が火花を発するときのようなパシパシというノイズが出るのだが、これが耳に心地よい。前々回のLoop-Lineではこの“切り替わり音”がテープの逆回転音みたいに聞こえてたんだけど、この違いは場所によるものなのかな。よくわからないけど。


操作はするがコントロールはしない(できない)”というのが面白いし、実はそれはいわゆる即興演奏の本質に迫ることかも、と思ったりして。“普通の楽器”の即興演奏でも、演奏の最中はやっぱり“操作はするがコントロールはしない(できない)”ものなんじゃないのかな。出音にも魅力があるし(聴いてて気持ちがいい)。


秋山徹次ソロ

「捨ててあったのを拾ってきた」という(笑)フォークギターを、弦もそのままで(危なっかしげにチューニングして)演奏。いちおうマーチンのDタイプの形をしているものの、サイドやバックはペンキみたいな塗装で塗りつぶしてあるのが廉価版であることを物語る。真鍮製のスライドバーをメインに使って演奏。


ミニマルなスライドギター:ライ・クーダーパリ・テキサス」におけるスライドを断片化したような静かで抽象的なサウンド。あとちょっとジム・オルーク "Happy Days" のアコギパートも思い出したり。親指で低音部を弾きつつ高音部をスライドで弾くのだけど、デルタブルースみたいに“ベース&メロディ”という構造になってなくてそれぞれ孤絶している音。スライドを滑らせるときにわざと左側(スライドバーとナットの間)をミューとさせないで、「ヒューーーン」と逆方向に音が滑っていくのを聴かせたり(...わ、分かります...?)。それから、スライドバーをブリッジ際にあてて「第2のブリッジ」みたいにしてプリペアしていたりした。


出てくる音はあくまで静かで断片的で抽象的、フレーズという形にならない、なりかけたらまた崩れる・止まるみたいな演奏を断続的に繰り返して、終演。

山内桂ソロ

なんでも、冷房なしの車で高速使わずに2日がかりで(!)上京、静岡でのライブでは侃々諤々の論争になった(!)という山内氏の、ソロ。息音が前面に出て、いわゆるサックスの音が背面で微かに聴こえる、といういつものスタイルでのソロ。静かで平明な演奏。


静かで平明」、これは実は、いわゆるフリーインプロヴィゼーション演奏家、特にホーン奏者では中々無いことだと思う。演奏表現を、息音を中心にしているホーン奏者には、ジョン・ブッチャー、アクセル・ドゥナー、ミシェル・ドネダなんかがいるけど、みんな、音量は小さいけど“激しい演奏”というか“荒ぶる音”だ。


それに対して山内氏の演奏は、本当に“静か”だ。こういう“静けさ”を表現手段として選んで、高次の表現として成り立たせていることは稀有なことだと思う。

トリオ演奏

トリオと言っても、別にアンサンブルやインタープレイがあるわけではなく、三人でてんでに音を出すというかたちで20分くらい、だったかな。

  • 秋山:右手にスライドバーを持ってブリッジ近くを滑らせ、左手はハンマリング/プリングで音を出す
  • 山内:息音→超高音の倍音奏法→息音
  • 吉村:フィードバック→珍しく低音のノイズ→フィードバック

こんな感じで終了。


終演後、皆さんと色々お話できて楽しかった。この手の音楽は初めてなのか、若干引いてる女の子のお客さんとかいて、ちょっと気の毒だったけど。
(^_^;;


山内桂
http://salmosax.com/
(h)earings
http://www16.ocn.ne.jp/~hearring/
百音
http://www.h6.dion.ne.jp/~cafemone/index.html

お店のブログ(小柄な女性の店長さん)に当日の感想が。

中学生のトキに目をつぶって耳をすまして
聞こえてくるモノに集中して、っていう時間を
先生が作ったことがあるのを思いだしました。
風の音鳥の声体育の授業の風景空調の音廊下の足音
聞こう、としなければ通り過ぎて行く音と時間を
拾ったことの印象はとても強く残っています。
たまには耳をすましてみたら、とてもいいね。
夏は音がとても似合う。

いいですね。それはディープ・リスニング(Deep Listening)というのです。いい先生ですね。

*1:山内氏はこの音の存在にちょっと異論があるみたいだったけど。やっぱ意図せざる音はできれば無いほうがいいという感じだったのかな。結局外したりはしなかったのだが