墨攻
映画「墨攻」を公開早々に観てきた。漫画の「墨攻」が好きだったので。
劇場に行ってみて、けっこうな入り、しかも高齢者のお客さんが多いのに驚いた。女房「けっこうおじさんおばさん*1多いね」俺「やっぱ『ビッグコミック』読んでた人が多いんじゃないの?」実はなんのことはない、俺たちが知らなかっただけで、公開に合わせて、TVの「世界ふしぎ発見」で「墨子」を取り上げたらしい。世の中に不思議なことなど何もないのだよ、関口君((c)京極夏彦)。
墨攻 - 公式サイト:Flashばっかりなのは気に入らん。テキストも画像だなんて!
http://www.bokkou.jp/
墨子 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E5%AD%90
墨家 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E5%AE%B6
墨攻 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E6%94%BB
さて、この映画、公式サイトやプログラム、フライヤーに「森秀樹の同名コミックを映画化」と記されているとおり、あくまでコミック版の映画化であり、「酒見賢一の小説の映画化」ではない。一応、原作の範囲だったコミック版3巻まで、いわゆる「梁城編」までを映画化してある(漫画版の4巻以降はオリジナルのストーリー)。
酒見賢一ファンにはコミック版はとかく評判良くないが、監督のジェイコブ・チャンも主演のアンディ・ラウも中国語版のコミックのファンだったらしい(パンフレットのインタビューより)。
ブログ検索すると、膨大な量の日記がひっかかり、その数がどんどん増えている。評判はおおむねいいようだ。
ただし、瑕疵がないわけじゃない。脚本・演出にバランスの悪さがあったり、編集に拙速さがみらたりするし、CGが現在の水準からするとショボかったりする。
非常に辛口だが、概ね正しい評価をしてらっしゃるかた。
http://blog.livedoor.jp/tsubuanco/archives/50912325.html
こちらのかたのレビューも面白い。
http://kizaemon.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/1000_1c9a.html
(この作品の欠点については俺なりにもう少し加筆するかも。少なくとも映画オリジナルの「ベルバラ」のオスカルみたいなじゃじゃ馬女騎士は不要だったろうとか)
さて。
実は映画の内容や出来・不出来以外に、観ていて意外に感じて、非常に印象に残ったことがある。
それは。
この作品もやはり「9.11以後の世界」を描いた映画なんだ、ということである。
あ、でも、断っておくけど、この作品は飽くまでエンタテインメント大作!であって、政治的な主張やメッセージを前面に出した映画ではない(だからここから先の話題は「墨攻」自体にはそんなに関係ないかも)。
だがしかし。
この作品での「死と犠牲」を扱う「手つき」や「視線」は、旧来の香港映画やいわゆる「歴史物の超大作」とはだいぶ、いやかなり異なる。むしろ、スピルバーグやイーストウッドの監督作品に近いものだ。
スピルバーグについては、過去に「宇宙戦争」によせて取り上げた*2。
http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20050703/p1
http://d.hatena.ne.jp/Bushdog/20050705/p1
スピルバーグの「死と犠牲」に対するスタンスを一言で表すなら、それは「無慈悲さ」である。スピルバーグの死にゆく者達に向ける徹底的に無慈悲な眼差しは凄い。時として「観客に対する悪意」じゃないのかコレは、と思われるような。グロ描写も多いが決してスプラッタ・ムービー程ではないのに、目を背けたくなるような「いやな感じ」と非常な「後味の悪さ」がある。観客に意地でもカタルシスなど味わわせるものか、とでも言うように。
一方、イーストウッドは、西部劇〜刑事ものアクション俳優という自分のキャリアの全否定か贖罪のように、監督作では繰り返し「戦いと死をドラマチックなものとして受容する事の不毛さ」を語る。「許されざる者」から「ミリオンダラー・ベイビー」まで*3、そこで描かれる「死」は常に砂を噛むように味気なくやるせなく、観る者に、ズン、とやり切れないヘヴィーな気持ちを抱かせたまま終わる。
「墨攻」での「死と犠牲」の質感は、それらと同質のものだ。
「墨攻」の勝利のシーンに、「カタルシス」は無い。ひとまず敵を退却させて勝どきをあげる農民たちと一緒に「イエーイ」と拳を振り上げたくなる気分にはならない。カタルシスを求める気持ちは「寸止め」のようにして抑えられる。そして観客の視点は監督によって、苦虫を噛み潰したように眉根をひそめて城内を彷徨し死体の埋葬を見送るアンディ・ラウのほうに強制的に向けられるのだ。
「死と犠牲」に対する手つき以外にも極めて今日的な点はいくつかある。
敵側の「趙軍」の将軍。かつての香港/中国映画の歴史物のように単純に「ワッハッハ、こんな小城、3日で落としてくれるわ」という演出ではない。自軍が強大であるのに全く安心できず、逆に強大であればあるほど不安が募り念には念を入れて徹底的な殲滅線を取らずにいられない、とか、戦線を縮小・撤退することができず、持続か拡大の方向にしか進めないなんてところは、明らかに現在の米国を彷彿させる。
さらに、これは非常にセンシティヴなところだと思うのだが、「弱い側が一時的に勝利を収めると、強者の側だった兵士や間者に虐殺・リンチを加え勝ちである」ということもキチっと描かれる。これはぶっちゃけちょっとビックリした。「クリリンのことかーーー!!!!」と激怒する人々(「クリリン」の所には任意の紛争地の名を代入せよ)が出ないか心配になったりして。
コミック原作の映画化というと、とかく原作の持ち味・テーマ・ニュアンスetcは、多かれ少なかれスポイルされてしまうものだ。俺もそれは半ば諦めというか「まぁそういうもんだから」と思って観始めたのだが、こういう風になっていて、けっこうビックリした。ロードショー公開で観るのを見送りにしてた方、だまされたと思って観てみるとよろし。欠点も多いが「観せる」作品にはなっているのではないかと。
分かってらっしゃるかたがた。
http://kartkorge.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_35c3.html
http://blog.goo.ne.jp/kazhik/e/97a2f0cadcd073321f0f040fa285c566
でも結局、このかたの意見に一番共感した。
http://giganosu.blog84.fc2.com/blog-entry-18.html
万人受けする時代設定じゃないし、作りこみも深いわけじゃない。
でも自分的には★5つ!!
アラを補ってあまりあるパワーがあったと思います。
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